監修:(公財)日本生態系協会

事務局長:関 健志

生物多様性が失われつつある現実をはっきりと示しているのが、世界中でさまざまな生きものが急激なスピードで絶滅しているという状況です。地球上の生物種の数は、確認されているもので約175万種、未知のものを含めると数千万種とも数億種とも言われますが、今や全世界で少なくとも1万6000種以上の生物が絶滅の危機にあるとされています。種の絶滅がこのままの速さで進めば地球の生態系はどんどん崩れていき、その一部である人間が生存していくことも危ぶまれます。

いま、地球上で起こっていること

加速する絶滅スピード - 負の連鎖 -

生物の歴史は進化と絶滅の繰り返しであり、これまで恐竜をはじめ多くの種が絶滅してきました。ところが今、地球上で起きている種の絶滅は自然のプロセスによるものではありません。乱獲、開発による生息地の破壊、外来種による影響、環境汚染や地球温暖化など人間のさまざまな行いが原因となって、絶滅のスピードが加速しているのです。1年に4万種、1日に100種以上と言われる急速な種の絶滅は生態系を崩し、それによって絶滅する種がさらに増えるという悪循環をもたらします。こうした負の連鎖を断ち切るには、絶滅の恐れのある生物を個々に保護するだけでなく、自然の生態系全体を回復することが必要になります。

国内で顕在化する生物多様性の危機

気候的な条件に恵まれ、世界的にみても自然に恵まれているといわれている日本においても、生物多様性の危機は深刻なものとなっています。

戦後の高度経済成長や国土の開発は日本を便利で物質的に豊かな社会にしましたが、他方それに伴い自然破壊が進み、日本各地で野生動植物の生息・生育地の減少、自然環境の悪化などが起こるようになりました。

また、農林業の低迷や過疎化などで里山や草原が利用されなくなり、自然に対する人間の働きかけが減ったことも悪影響を及ぼしています。その結果、水田、ため池、草原、雑木林などに生息する生物が絶滅の危機に瀕しているのです。

さらにブラックバスやマングースのように、もともとその土地にいなかった生物を人間が持ち込んだことによって本来の生態系が脅かされるという外来種の問題も深刻なものになっています。外来種はその地に元からいた生物を捕食したり、生息場所やエサを奪うなどして個体数を減少させ、また近縁の種と交雑して遺伝子の撹乱をもたらすなどして、地域本来の生態系に大きなダメージを与えています。

こうした自然生態系の乱れから、シカやイノシシなど鳥獣による農林業被害も増加しています。中でも大きな被害をもたらしているシカは、暖冬による小雪化や天敵であるオオカミの絶滅などによって個体数と生息地を拡大し、希少植物を食い荒らすなど自然の植生も破壊しています。

地球温暖化と生物多様性の関係

私たちが解決していかなければならないもう一つの大きな環境問題に地球温暖化がありますが、これと生物多様性の問題は、切り離して考えるべきではありません。というのも、地球温暖化による気候変動が生物多様性に深刻な影響を及ぼすことを世界の多くの科学者が指摘しているからです。これから先、地球の平均気温が0.8℃上昇するだけで、世界の生物種の最大30%が絶滅に向かうとの予測もあります。

日本でもすでに、地球温暖化による海水温度の上昇が原因と考えられるサンゴ礁の異変が、近海で報告されています。サンゴは褐虫藻という植物プランクトンと共生しています。ところが褐虫藻は高温に弱く、海水温度が上昇するとサンゴから抜け出していきます。その結果、サンゴの白化現象が起こり、白化が長く続くとサンゴは死滅してしまいます。サンゴの死滅は海洋のCO2吸収力の低下につながり、それが原因で、さらに海水温度が上昇するという悪循環をもたらすことになるともいわれています。

またそうした異変は、サンゴ礁に依存するさまざまな海の生物にも影響し、海の生態系が破壊されることが心配されます。

ページ最上部へ戻る