年齢を重ねる=老いる ではない

私たちは、年齢を重ねるにしたがって新しいことを学ぶ力や記憶力がだんだんと衰えていくものと考えがちです。20世紀後半に高齢化社会を迎えた欧米などでは「生涯発達心理学」の研究が進んで、一般的には人間の認知能力は20歳以降徐々に低下するものの、健康な高齢者には脳を効率よく活動させて課題を解決する新しい能力が生まれる可能性があること、そして語彙の能力や創造力は生涯にわたって向上させていけることがわかってきました。

自身と社会とのギャップに気づく

老いに対する感じ方は人によってさまざまですが、一般的には実際の年齢(=暦年齢)よりも自身が感じる年齢(=主観年齢)とのギャップが青年期を境にだんだんと大きくなっていくことも専門家などによる調査から明らかになっています。一方、社会では「老い」への偏見として「生産性が低い」「変化を望まない」といった否定的なイメージを抱きがちです。このギャップがときには高齢者にとって大きなストレスになることも社会問題のひとつとなっています。

年齢を重ねる自分に「寄りそう」

最初に紹介したとおり、私たちには低下していく認知能力をおぎなうために新たに別の能力を生みだしていくことができます。そこで年齢を重ねながら、周囲にも自分をよりよく適応させていくノウハウとして、これまで身につけてきた能力は保ったまま、低下していく能力への対処方法を考えていくことを提言する専門家がいます。その好例として挙げられているのが、1982年に95歳で亡くなった世界的なピアニスト、アルトゥール・ル―ビンシュタインの逸話です。80歳でもなお驚異的な演奏活動をしていたル―ビンシュタインは、その秘訣についてインタビューされた際、演奏レパートリーを減らし(=選択)、そのレパートリーだけを徹底して練習し(=最適化)、テンポの速いフレーズはゆっくり弾いてテクニックが衰えていない印象を与える(=補償)ことだと答えたといいます。生涯発達心理学の学者であるポール・バルテスはこれを「補償をともなう選択的最適化」理論として提唱しています。私たちにおきかえてみると、加齢による心身の変化を受け入れ、自分のできることに注力するということが、社会の偏見にとらわれず、よりよい高齢期を過ごすためのヒントとなるのではないでしょうか。

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