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日本の景気後退は深刻化・長期化するのか

9月15日、米国大手証券会社リーマン・ブラザーズが経営破たんし、これを機に世界各地の株式市場では株価が暴落、金融不安が一気に高まりました。
これに対して米国の政策当局は、1.リーマン・ブラザーズに続いて経営危機が伝えられていた米国大手保険会社AIGを事実上管理下に置き、2.金融機関の不良債権を最大7000億ドル買い取る方針を明らかにし、3.大手証券会社ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの銀行持ち株会社化を承認するなど、矢継ぎ早に大胆な策を打ち出しました。これによって世界の金融市場はやや落ち着きを取り戻しました。

この間、米国の景気は悪化の度を強めています。失業率は6.1%と5年ぶりの高水準となり、住宅ローンの劣化は最も信用力の高い階層向けのプライムローンにまで及び、その延滞率は過去10数年間で最高水準となっています。こうした実体経済の動きは金融市場に新たなネガティブなインパクトを与え、信用収縮はなかなかほぐれず、銀行の貸出態度も厳格化し、企業や家計の経済活動に悪影響を及ぼす恐れもあります。
このように、米国内では実体経済と金融との負の連鎖はなお根強く残ると見られ、米国経済はそう簡単には景気後退局面から抜け出せない可能性が高まっています。

以上のような米国経済の状況は、日本経済にどのような影響を与えるのでしょうか。日本経済の景気後退は今のところ「短く軽微」と見られていますが、これが「深刻化し長期化」するのでしょうか。影響の経路とその度合いを整理してみましょう。

第1は、米国経済の景気後退が新興国をも巻き込み、新興国向けに支えられた日本の輸出を大きく減少させる経路です。
新興国経済が米国経済の影響を全く受けないことはありませんが、新興国の経済成長を牽引しているのは国内のインフラ投資です※1。これはある程度構造的に伸びることが期待でき、米国経済の動向に直接かつ大きく左右されることは少ないと考えられます。国際機関の世界経済見通しを見ても、新興国の成長率は下方修正されつつあるとは言え、水準としてはまだ十分高めのものとなっています※2

このため日本の輸出は、伸びがかなり鈍化することは避けられないとしても、景気の足を引っ張る(マイナスの伸びにまで落ち込む)ことはないでしょう。

なお、米国経済の悪化は円高ドル安要因となりますが、日本経済もさほど良いわけではないので急速かつ大幅な円高進行は考えにくく、日本の輸出企業はもともと100円台前半の円ドルレートを前提に収益計画を立てているので、大きな影響はないと見られます。

第2は、金融市場の混乱や世界経済の後退に直面した企業が、設備投資を大幅に削減するという経路です。
足元の収益が減っていることもあり、投資案件が絞り込まれることは間違いなく、2008年度の企業の設備投資は、前年度(▲0.1%)に続き減少すると見込まれます。
しかし大企業では、グローバル化の中で競争力を維持するための投資意欲は衰えていないと見られます。これは、新興国の中期的な高度成長に企業が確信を持ち続けていること、その成長の成果を取り込むことが企業の至上命題であること−のためです。鉄鋼大手が久々に新高炉建設を計画していることはその象徴的な動きと言えるでしょう。

第3は、金融機関が多額の損失を計上する結果、貸出態度を慎重化させ、企業や家計の経済活動を阻害する経路です。
サブプライム問題の影響の広がりや株価下落により、日本の金融機関は少なからぬ損失を被り、貸出態度にも慎重な姿勢が見えてきました。しかし日本の金融機関の損失は欧米の金融機関と比べればかなり小さく、彼らのように資本不足に陥るほどではありません。全体としてみれば金融システムの安定性は保たれており、90年代後半のような金融システム不安が再現されることはないでしょう※3

第4は、米国経済ひいては世界経済の悪化が原油など資源価格を下落させ、原材料価格や消費者物価が下がる経路です。これは上記3つとは異なり、企業収益や家計の購買力を上向かせ、景気を回復に導くプラスのルートです。
日本経済が景気後退に至った主因は、サブプライム問題より原油など原材料価格の高騰であっただけに、原材料価格高騰の一服は景気回復の必須要件です。最近はようやくその兆しが見えてきたと言えます。
しかし、この原材料価格の下落は世界景気の落ち込みを伴っているだけに、直ちに日本の景気回復につながるわけではありません。また米国はじめ世界景気の回復が見えてくれば、原材料価格は再び上がり始めるでしょう。このように考えると、この経路のプラス評価は控えめに見ておく必要があるでしょう。
以上のように考えると、このところの米国の景気と金融セクターの一層の悪化によって、「短く軽微」と見込まれていた日本の景気後退は、当初予想よりやや長く深くなるかもしれませんが、「深刻化し長期化する」可能性はまだ低いと考えられます。

金融システム不安が高まった1998年度は、設備投資が大幅に減少し(▲8.2%)、マイナス成長(▲1.5%)となりました。ITバブル崩壊に見舞われた2001年度は、輸出が大きく落ち込み(▲7.9%)、この時もマイナス成長(▲0.8%)となりました(下図)。
エコノミストや主要シンクタンクの間では、今回の景気後退局面では、1998年度や2001年度のようにはならず、輸出はプラスの伸びを維持し、設備投資のマイナス幅も小幅にとどまり、成長率は2008・2009年度ともプラスを維持する−という見方が大勢となっています。

実質GDP、設備投資、輸出の推移(前年度増減率)

  1. ※1 中国の国内投資の中身を業種別に見ると、公共インフラ投資関連の3業種(「運輸・通信」「電力・ガス・水道」「水利・公共施設」)で約25%を占めており、製造業(31%)に比肩するものとなっている。
  2. ※2 IMFの世界経済見通し(2008年7月)によると、「新興国及び発展途上国」地域全体の経済成長率は2008年:6.9%→2009年:6.7%。
  3. ※3 日銀「短観(6月調査)」の金融機関の貸出態度DI(「緩い」−「厳しい」)を見ると、業種・規模毎でばらつきがあるが、全規模・全産業ベースでは+8とプラス圏を維持している。

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