とっておきのマネー情報

欧州政府債務問題に振り回される為替市場

2009年秋にギリシャの財政赤字隠蔽が発覚したことをきっかけとして浮上した欧州政府債務問題の悪化と長期化は、様々な地域の為替市場にも大きな影響を与えています。

まず日本の円ですが、日本円を資金避難先として買おうという動きが強まったことで、円高圧力を受けています。これに対して日本政府は、8月に続いて10月にも大規模な円売り介入を行い、円高に歯止めをかけようとしました。円ドルレートはいったん2〜3円近く円安に振れましたが、その後は77円台へと再び円高方向に戻りつつあり、欧州政府債務問題に対する市場の懸念がそれだけ根強いものであることが窺えます。

日本と同様、自国通貨売りの介入に踏み切った国にスイスがあります。スイス国立銀行は8月に大規模なスイスフラン売りの介入を行ってレートを押し下げましたが、欧州政府債務問題の悪化により8月末から再び通貨高に振れたため、9月初めにスイスフランの対ユーロレート上限を1ユーロ=1.2スイスフランとしてこの水準を超えた場合には無制限のスイスフラン売り介入で対応することを決定しました。この決定でスイスフランのレートは1ユーロ=1.10スイスフランから1.2以下まで一気に下落し、11月上旬に至るまでその水準を維持しています。介入が一時的であるために円高に戻りつつある円ドルレートの動きとは、この点で大きく異なります。

ただし、自国通貨売りの介入は、売る対象であるその国の通貨を発行することで理論上は無制限に介入することが可能ですが、次のような問題もあります。スイスフランの例でいえば、スイスフラン買いの流れが止まらなかった場合、自国通貨を売った対価としてスイスが抱えるユーロ建て資産が膨れ上がっていきます。スイス国立銀行が抱えるユーロ建て資産は、6月末の893億ユーロから9月末には1,275億ユーロまで、僅か3ヶ月で4割以上増加しました。8月以降の介入によって大幅に増えたもので、この残高はスイスGDPの28%にも及びます。これはスイスの中央銀行にとってみれば、保有する資産がユーロ下落により大きく棄損していくリスクを抱え込むことになります。スイス国立銀行が無制限の介入を決定した日、同行のヒルデブランド総裁が「本日の決定によって、スイス国立銀行は困難な道のりへの一歩を踏み出した。この決定によるコストが高いものになる可能性があることを、我々は受け入れる必要がある。」と述べたことからも、苦渋の決断であったことが窺えます。

日本やスイスとは逆に、欧州政府債務問題から強い通貨安圧力を受けて、自国通貨買いの介入を行ったのが新興国です。9月下旬、欧州債務問題の状況悪化を受けてリスクを回避する姿勢を強めた市場参加者が新興国通貨を一斉に売ったために、新興国通貨のレートが急激に下がりました。これに歯止めをかけるために、複数の国が自国通貨買いの介入を行いました。

欧州金融機関のドル調達コストの推移

円高に悩む我が国にとって、自国通貨安は羨ましいことのように見えるかも知れませんが、通貨安が急激に進めば、輸入価格上昇を通じてインフレ加速の要因になる他、通貨安が続くことで海外からの信認が低下すれば、大規模な資金逃避につながる恐れも出てくるという怖さがあります。また自国通貨買いの介入は、対価として売却する外貨を保有している必要がありますから、無制限に行うことはできません。1997年に起こったアジア通貨危機では、タイなど通貨を売り浴びせられた国が介入したものの、保有外貨が枯渇したことでそれ以上の防衛ができなくなり、通貨が暴落したことが混乱に拍車をかける要因になりました。自国通貨買いの介入の必要に迫られるというのは、今の日本やスイス以上に厄介な状況と言えなくもありません。

このように欧州政府債務問題は、日本には円高による景気悪化リスクを、スイスには外貨資産の含み損拡大のリスクを、そして新興国には大幅な通貨安のリスクという、三者三様のリスクをもたらしています。この先も、欧州から他の地域への金融や為替チャネルを通じた波及とそのリスクには、注意を払い続ける必要があります。

※本資料は、作成時点(2011年11月9日現在)で入手可能なデータにもとづき当社調査部が執筆したものであり、将来の見通しおよび正確性、完全性を保証するものではありません。

窓口でのご相談・お申し込み

窓口でのご相談・お申し込み

  • お近くの三井住友信託銀行の店舗を探す。
  • お近くの店舗を検索

新規口座開設をご希望のお客さま

新規口座開設をご希望のお客さま

新規口座はお近くの三井住友信託銀行の店舗やメールオーダーでお申込みいただけます。

  • 口座開設について
  • お近くの店舗を検索

ページトップへ戻る