第5回 大賞作品

渋滞もわるくない 千葉 良子 (岩手県 51歳)

忘れません、ずっと

選定委員:栗田 亘(コラムニスト)

 千葉良子さんに会いに出かけました。
 海沿いを走るバスが、お住まいの陸前高田市に入ったとき、ボクは言葉を失いました。目の前にあったのは、一面の荒野にも似た、どこまでもひろがる造成地だったのです。
 「3・11」のあの日、太平洋に面した平地の市街中心部は、津波に直撃され、根こそぎ消失しました。7年も経ったというのに、陸前高田の復興は、まだ道のりの最初の段階でしかありません。天文学的な量の土を運び込んでかさ上げしつつある新しい市街地に、建物は数えるほどしか見えません。個人の戸建て住宅はまだゼロ、とも聞きました。
 千葉さんは市内の中学校の先生です。当時勤務していた学校は、山側にあったため被災せず、救援自衛隊の基地になりました。
 厳しくつらい日々が過ぎ、自衛隊がひとまず撤収することになったとき、生徒たちは隊員にお礼の手紙を書きました。
 〈ボクたちを忘れないでください〉と生徒の一人は記したそうです。〈ボクたちの力だけでは、故郷を復興することはできません。これからも応援してください〉
 市内で乗ったタクシーの運転手さんは「ここに、自然発生的なものは何一つ残っていません」と表現しました。道も家も草も木も鳥も虫も、なにより人も、何一つ……。
 千葉さんは「私の文章が人の目に触れて、いまだに消息がわからない卒業生たちと、もしも連絡が取れたら」と願っています。