私は私の心に閉じ込められている

デザイナーの友だちと一緒に電車に乗った時のこと。彼女が車内の吊り広告をじっと見つめているのに気づいた。それは週刊誌の広告だった。並んだ目次の中のどの記事に興味を持ったのか、 気になったので、電車を降りてから尋ねてみた。
 「なんか面白い記事あった?」
 「え、ああ、書体を見てたの」
想像もしなかった答えにびっくりした。そうか、デザイナーだもんなあ。
彼女によると、そこには珍しい書体が使われていたらしい。同じ電車で同じ広告を眺めながら、 その目は私には見えないモノを捉えていたのだ。物理的な体験を共有しても、一人一人の心に映る世界は違う。そのことを痛感した。体は自由に動けても、私は私の心に閉じ込められているのだ。だからこそ、他者の世界を知りたい。一人一人の心に刻まれた大切なモノやコトを教えて欲しいと思う。

穂村 弘