リスク管理の基本方針

当グループでは、グループ経営方針、内部統制基本方針に基づき、リスクの特定、評価、モニタリング、コントロールおよび削減等の一連のリスク管理活動をとおして、的確にリスクの状況を把握し、必要な措置を講じることを基本方針としています。当グループのリスク管理のフレームワークは、リスクアペタイト・フレームワークを取り込み、連関性をもってグループ内で有機的に機能しています。

リスク管理体制

(1)リスクガバナンス体制

当グループは、グループ全体のリスクガバナンス体制として、グループ事業におけるリスク管理(ファーストライン・ディフェンス)、リスク統括部およびリスク管理各部によるリスク管理(セカンドライン・ディフェンス)、内部監査部による検証(サードライン・ディフェンス)の三線防御体制(スリーラインズ・オブ・ディフェンス)を構築しています。

リスクガバナンス体制

①ファーストライン・ディフェンス

グループ各事業では、業務商品知識を活かして自事業の推進におけるリスク特性の把握を行います。グループ各事業は定められたリスクテイクの方針に基づき、リスクアペタイトの範囲内でリスクテイクを行うとともに、リスクを評価し、リスクアペタイトの範囲外のリスクが顕在化した際には現場レベルでのリスクコントロールを迅速に実行します。また、リスク管理の状況をセカンドラインに適時に報告します。

②セカンドライン・ディフェンス

リスク統括部およびリスク管理各部は、各リスクカテゴリーの管理部署として、取締役会によって決定されたグループ全体のリスク管理方針に従い、ファーストラインから独立した立場で、ファーストラインのリスクテイクへの牽制機能を発揮し、リスクガバナンス体制の監督・指導を行います。

リスク統括部は、統合的リスク管理部署として、グループ全体を対象にリスクを特定・評価し、リスク管理プロセスを構築し、リスク限度枠の設定を行うほか、リスクが顕在化した場合の全社リカバリー戦略をあらかじめ策定します。また、リスク管理各部と適切に情報共有を行い、リスクおよびリスク管理全体の状況を統合的にモニタリングし、その状況を経営会議、取締役会へ報告します。

③サードライン・ディフェンス

内部監査部は、グループのリスクガバナンス体制およびプロセスの有効性や適切性をファーストライン、セカンドラインから独立した立場で監査します。

④経営会議

経営会議は、代表執行役ならびに執行役社長が指定する執行役をもって構成され、リスク管理に関する事項の決定および取締役会決議・報告事項の予備討議を行います。

⑤取締役会

取締役会は、取締役全員をもって組織され、当グループの経営方針およびリスクテイクの戦略目標を決定し、リスクの所在と性質を十分認識した上で、戦略目標を踏まえたリスク管理方針などを策定し、適切なリスクガバナンス体制を整備し、実施状況を監督します。また、取締役会は当グループのビジネス戦略やリスクの特性を踏まえ、任意の諮問機関として「リスク委員会」および「利益相反管理委員会」を設置しています。

リスク委員会

リスク委員会は、当グループの経営を取り巻く環境認識に関する事項、リスク管理の実効性に関する事項などに関し、取締役会からの諮問を受けてその適切性などを検討し、答申を行います。

利益相反管理委員会

利益相反管理委員会は、信託の受託者精神に基づき当グループが目指す、お客さまの「ベストパートナー」の基盤となる、フィデューシャリー・デューティーおよび利益相反管理に関する事項に関し、取締役会から諮問を受けてその適切性などを検討し、答申を行います。

(2)リスク管理のプロセス

当グループでは、リスク統括部およびリスク管理各部がセカンドラインとして、以下の手順でリスク管理を行います。また、このリスク管理プロセスについては、関連するシステムを含め、サードラインの内部監査部により定期的に監査されます。

①リスクの特定

当グループの業務範囲の網羅性も確保した上で、直面するリスクを網羅的に洗い出し、洗い出したリスクの規模・特性を踏まえ、管理対象とするリスクを特定します。この中で、特に重要なリスクを「重要リスク」として管理します。

②リスクの評価

管理対象として特定したリスクについて、グループ各事業の規模・特性およびリスクプロファイルに見合った適切なリスクの分析・評価・計測を行います。このうち「重要リスク」については、定期的に、「発生頻度」「影響度」および「重要度」を評価し、トップリスク(1年以内に当グループの事業遂行能力や業績目標に重大な影響をもたらす可能性があり、経営上注意すべきリスク)やエマージングリスク(1年超、中長期に重大な影響をもたらす可能性があるリスク)などに該当するかどうかの判断を行います。

③リスクのモニタリング

当グループの内部環境(リスクプロファイル、配分資本の使用状況など)や外部環境(経済、市場など)の状況に照らし、KRI※1などの指標を設定した上で、リスクの状況を適切な頻度でモニタリングし、状況に応じ、グループ各事業に対して勧告・指導または助言を行います。

モニタリングした内容は、定期的にまたは必要に応じて取締役会、経営会議などへ報告・提言します。

※1KRI:重要リスク指標(Key Risk Indicator)

トップリスクなどの予兆管理

当グループのビジネスモデルの特徴とリスク特性を踏まえ、トップリスクおよびエマージングリスクなどを選定した上で、内生要因リスクについては「リスクアペタイト指標」を、外生要因リスクについては予兆指標を設定するなど、モニタリングを行っています。

主なトップリスクおよびエマージングリスク

  • 政策保有株式などの価格下落に関するリスク
  • 信用ポートフォリオにおける大口与信先への与信集中リスク
  • サイバー攻撃に関するリスク
  • 気候変動に関するリスク※2
  • 地政学的リスク顕在化(ウクライナ危機など)に関するリスク
  • イノベーションに関するリスク
  • 日本の少子高齢化の進展に関するリスク

※2気候変動に関するリスクに対する当グループの取り組みについては、本報告書の「気候変動対応」や「TCFDレポート」(2022年12月発行)をご参照ください。

④リスクのコントロールおよび削減

リスク量がリスクアペタイトの許容レンジやリスク限度枠を超過したとき、もしくは超過が懸念されるなど、経営の健全性に重大な影響を及ぼす事象が生じた場合には、取締役会、経営会議などに対して適切に報告を行い、リスクの重要度に応じ、必要な対応策を講じます。

リスクアペタイト

(1)リスクアペタイト・フレームワークの位置付け

リスクアペタイト・フレームワークとは、当グループのパーパス(存在意義)、経営理念(ミッション)およびマテリアリティ等に基づき策定した経営戦略の実現のため、リスクキャパシティの範囲内で、リスクアペタイトを決定するプロセスおよびその適切性・十分性をモニタリングし担保する内部統制システムから構成される全社的な経営管理の枠組みをいいます。

当グループのリスクアペタイト・フレームワークは、収益力強化とリスク管理高度化の両立を主な目的とし、リスクアペタイトの設定・伝達・モニタリングを通じたコミュニケーションプロセスの確立により、リスクテイク全般に関する意思決定プロセスの透明性向上および経営資源配分の最適化、ならびにモニタリング体制の強化を推進しています。上記を通じ、当グループは、リスクアペタイト・フレームワークの実践・高度化により、価値創造プロセスを通じた健全かつ持続可能な発展を目的として、コーポレートガバナンスの一部を構成するリスクガバナンスの高度化を推進しています。

リスクアペタイト・フレームワークの概要

(2)リスクアペタイトの運営

①リスクアペタイトの決定

当グループでは、リスクを、取るリスク(リターンを生み出す活動に付随して発生するリスク)と、回避すべきリスク(コンダクトリスクなど、当グループとして許容しないリスク)の2つに分類しています。

当グループのリスクアペタイト・フレームワークでは、パーパスなどを踏まえて、大方針となるリスクテイク方針およびストレステストの結果を考慮したリスクアペタイト指標を、取締役会で決定しています。また、取締役会で定めた方針の範囲内で、ビジネス種別ごとに詳細なリスクテイク方針とリスクアペタイト指標を設定し、経営会議で決定しています。

こうしたリスクアペタイト・フレームワークの全体像や方針・指標を明確化するための文書として、リスクアペタイト・ステートメントを制定しています。リスクテイク方針とリスクアペタイト指標は、経営計画と整合的に決定しており、年1回以上もしくは必要に応じて随時見直しを実施しています。

②リスクアペタイトのモニタリング

リスクアペタイト指標は、リターン・リスク・コストの3つの観点等から設定し、適切なリスクテイクが行われているか、定期的にモニタリング・検証を実施しています。また、マテリアリティ単位でも同様にリスクアペタイト指標を設定し、重要課題への対応状況のモニタリングを通じて、価値創造プロセスが機能し、財務資本・非財務資本が循環していることを確認しています。

リスクアペタイト指標が設定した水準から乖離した場合、要因を分析した上で対応策を実行し、必要に応じてリスクテイクする水準を見直します。

リスク文化の醸成と浸透

当グループでは、リスク文化を「信託の受託者精神に基づく高い自己規律のもと、リスクの適切な評価を踏まえたリスクテイク、リスク管理、リスクコントロールを機動的に実行する当グループの組織および役員・社員の規範・態度・行動を規定する基本的な考え方」と定義しています。

当グループでは、経営計画策定時にグループ事業ごとのリスクテイク方針を明確化するとともに、役員・社員全員が適切なリスクテイクを行うことを通じて、当グループが持続可能なビジネスモデルを構築し、企業価値向上およびステークホルダーの価値向上に貢献することを目指し、リスク文化の醸成・浸透のため、eラーニング型・ディスカッション型の研修などを通じて、リスク文化の理解促進・浸透を図っています。

リスク特性

当グループは、信託グループとして、信託の受託者精神に立脚し、高度な専門性と総合力を駆使して、銀行、資産運用・資産管理、不動産などを融合したトータルソリューション型ビジネスモデルで独自の価値を創出することを目指しています。

当グループ各事業は、そのビジネス特性に応じ、信用リスク、市場リスク、資金繰りリスクおよびオペレーショナル・リスクといったさまざまなリスクにさらされています。

こうしたなか、信託業務関連のリスクについては、留意すべき基本的事項を取りまとめた当グループの「信託業務指針」を管理高度化の礎として制定しているほか、三井住友信託銀行では、信託受託者としての善管注意義務・忠実義務・分別管理義務などの観点も加え、信託業務関連のリスクについて主にオペレーショナル・リスクのカテゴリーで管理しています。

また、コンダクトリスクについても、グループの中核である三井住友信託銀行を中心に、主要なリスクの状況を定期的に把握し、社内研修等を通じて役員・社員の意識の浸透・醸成に努めることにより、リスクの削減・管理、リスク顕在化の未然防止に取り組んでいます。

統合的リスク管理

(1)統合的リスク管理体制

当グループでは直面するリスクに関して、それぞれのリスクカテゴリーごとに評価したリスクを総合的に捉え、経営体力(自己資本)と比較・対照することによって、リスク管理を行っています(統合的リスク管理)。

当グループでは、年1回、リスク管理やリスクコントロールの実効性を評価し、環境変化などにより必要が生じたと判断した場合は、リスクカテゴリーの体系、リスク管理体制などの見直しを検討することとしています。

また、当グループでは統合的リスク管理における管理対象リスクのうち、VaRなどの統一的尺度で計量可能なリスク値を合算して、経営体力(自己資本)と対比することにより管理しています(統合リスク管理)。

VaR:バリュー・アット・リスク(Value at Risk)

(2)資本配分運営

当グループでは、外部環境、リスク・リターンの状況、シナリオ分析および自己資本充実度評価の結果を踏まえ、各リスクカテゴリー(信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスク)を対象に、グループ各事業へ資本を配分する運営を行っています。

資本配分の計画は、取締役会で決議しています。配分する資本の水準は、当グループのリスクアペタイトに基づいて決定されます。

グループ各事業は、リスク量が配分された資本の範囲内、かつリスクアペタイトの範囲内となるように業務を運営します。また、リスク統括部は、月次でリスク量を計測し、配分された資本およびリスクアペタイトに対するリスクの状況を、定期的に取締役会などに報告しています。

(3)ストレステストと自己資本充実度評価

リスク統括部は、資本配分の計画の策定および見直しの都度、預金者保護の視点による自己資本充実度の確保のため、仮想シナリオ、ヒストリカルシナリオおよび発生確率検証の3種類のストレステストを実施し、その結果に基づき自己資本充実度を評価の上、取締役会などに報告しています。

危機管理

当グループでは、金融機関としての公共的使命・社会的責任を踏まえ、災害や大規模システム障害、新種感染症の流行などに迅速かつ適切に対応できる態勢の整備に努めています。

危機発生時には、社長を本部長とする緊急対策本部を設置し、お客さま、役員・社員やその家族等の安全を最優先で確保することとしています。また、円滑にサービス提供を続けられるよう、業務継続プラン(BCP)を整備し、その実効性を確保するため、定期的な訓練と内容の見直しを実施しています。特に、大規模災害に備え、バックアップオフィスやバックアップシステム整備などの代替態勢の整備強化を進めています。

なお、新種感染症の発生・蔓延に備え、新型コロナウイルス感染症への対応の経験を活かし、テレワーク環境をさらに増強・活用するなど、感染拡大防止と社会インフラとしての機能維持の両立を図っています。

新商品・サービスの導入時審査体制と導入後管理体制

新商品・サービスを導入する際には、あらかじめ内在するリスクの有無、種類の特定・評価・管理、お客さまへの説明資料・手法など、商品や業務を継続するためにさまざまな体制整備を行う必要があります。このため、当グループでは新商品・サービスの導入時に審査を実施する体制としています。この審査プロセスにおいては、お客さまから信頼していただける商品・サービスの導入を重視し、複数の部署がさまざまな角度から検証を行います。

新商品・サービスの導入後は、商品審査委員会で審査された案件については、リスク管理の観点も含め、導入後の取り組み状況を定期的にモニタリングしています。

また、商品審査委員会での審議の有無にかかわらず、環境変化などによりお客さまへの説明内容が変わることが想定される商品・サービスに対しても、適切な説明を行う観点から、定期的にモニタリングを行っています。

商品審査のプロセス(三井住友信託銀行)

※1リスク統括部、コンプライアンス統括部、法務部、業務部、FD・CS企画推進部、財務企画部、業務管理部など

※2商品性を勘案し、利益相反の観点で審査が必要な場合は「利益相反管理高度化委員会」と合同開催します。

※3三井住友信託銀行の経営会議付議案件のうち当グループの経営に重大な影響を与える可能性のある新商品などについては、当社宛協議することとし、経営会議への付議・取締役会への報告を行う枠組みとしています。

ページ最上部へ戻る