監修:(公財)日本生態系協会

事務局長:関 健志

地球温暖化と並ぶ重要な地球環境問題でありながら、生物多様性に対する私たちの認識や関心はこれまであまり高くありませんでした。けれども近年、生物種の絶滅、自然生態系の破壊などの事態が進み、自然の資源が急速に失われつつあることへの危機感が高まり、国内外で生物多様性を保全するためのさまざまな施策が進められています。こうした活動は今後さらに活発化していくものと思われます。

いま、私たちがしなければならないこと

国内での保全への動き ー霞ヶ浦を蘇らせるアサザプロジェクト

日本で2番目に大きい湖・霞ヶ浦は、全周をコンクリートで護岸化したことで、水質汚染、生態系の破壊、漁業の衰退などの問題が起こりました。その霞ヶ浦の失われた自然を再生しようという試みに「アサザプロジェクト」があります。アサザなどの水性植物を、市民や子どもたちが家や学校で育てて霞ヶ浦に植え、水辺の植生を復元することから始まりました。現在では、湖周辺の学校、市民団体、漁協、企業、研究機関、行政などが連携して酒米作りや魚粉事業などのさまざまな事業を市民主導型で進め、参加者は延べ20万人(2010年4月現在)を超えています。100年後にはトキが舞う霞ヶ浦の実現を目指しています。

写真提供:NPO 法人アサザ基金 http://www.asaza.jp/新規ウィンドウで開く

満開のアサザ 満開のアサザ
小学生によるアサザ植え付け 小学生によるアサザ植え付け

海外での保全への動き(北アメリカ)ーキシミー川の復元プロジェクト

欧米諸国では先進的な自然再生事業が行われており、その中でも世界最大規模のものとして注目を集めるのが、アメリカ・フロリダ州のキシミー川の復元です。キシミー川は60年代に行われた治水事業によって、蛇行していた166キロの川が90キロの直線水路になり、氾濫原の湿地帯は牧草地に変わりましたが、湿地の生物が激減する結果を招きました。政府は自然生態系の破壊に危機感を抱く市民の声に押され、氾濫原内の私有地を買い上げ、直線化した部分を埋め、元の蛇行する川を復元して湿地帯を再生する大事業を進めています。

写真提供:(公財)日本生態系協会 エコシステムNo.58(2001年11月)

本来のキシミー川 本来のキシミー川
再自然化が進められているキシミー川 再自然化が進められているキシミー川
直線化したキシミー川 直線化したキシミー川

日本における生物多様性 ー生物多様性基本法

日本では平成7年(第一次)、平成14年(第二次)に続いて平成19年11月に第三次生物多様性国家戦略が策定されました。これらをベースに、平成20年5月28日「生物多様性基本法」が成立。6月6日に公布・施行されました。これまで日本には「鳥獣保護法」「種の保存法」「特定外来生物法」など生物多様性に関わる個別の法律はありましたが、野生生物と生息環境、生態系全体のつながりを含めて保全することを目的とした網羅的な法律という点で「生物多様性基本法」は初のものです。

さまざまな環境保護団体が作成に参加したその内容は、野生生物を広くカバーしていること、自然資源の持続可能な利用を定義したこと、予防的な取り組みを明記したこと、地方自治体に「生物多様性地域戦略」を定めるよう促していることなど多くの点で画期的とされています。また、国民の責務として生物多様性に配慮した物品を選ぶことが盛り込まれている点も、大きなポイントといえるでしょう。

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の成果

平成22年10月18日~29日、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋市で開催されました。COP10には、179の生物多様性条約締約国や関連国際機関など1万3千人以上が参加し、また、NGOや民間企業などによる約350のサイドイベントや、一般の方々向けの「生物多様性交流フェア」も開催され、11万8千人を超える来場者で賑いました。

直前までは合意や採択は難しいと見られていましたが、「名古屋議定書」や「愛知ターゲット」が採択されるなど、大きな成果があったといえます。

名古屋議定書

「名古屋議定書」は、野生動植物などから製品化するなど、「遺伝資源利用」と「利益配分」についての国際的なルールを定めたものです。法的拘束力のある国際約束の採択を受け、ルールの透明性や明確性が確保されることは、遺伝資源の提供国、利用国の双方にとって望ましいといえ、今後の遺伝資源の活用の促進が期待されています。

愛知目標

「愛知目標」は、2050 年までに「自然と共生する」世界を実現するというビジョン(中長期目標)を持って、2020 年までにミッション(短期目標) 及び20の個別目標の達成を目指すものです。個別目標では具体的な目標設定を目指していましたが、例えば、「少なくとも陸域17%、海域10%が保護地域などにより保全する」など、いくつかの数値目標も採択されました。締約国に積極的な行動を促す「明確」で「わかりやすい」世界目標として、高い実効性を持つことが期待されています。

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