健康

自身の老いと向き合う

人類の悲願であった長寿を、世界に先駆けてかなえた日本人の平均寿命は、今や100歳に近づいています。「長くなった老後」という未知の世界では、どのようなことが起きるのか、老いに伴うさまざまな事がらとどのようにつき合っていけばよいのか、一人ひとりが手探りでその答えを探していくことになるのでしょう。
国際長寿センター日本(ILC-Japan)は、Productive Agingを基本理念に、超高齢社会における新たな価値観の創造と、社会と個人の意識改革に向けた活動を、世界17カ国で行っています。高齢者が社会の半数近くをしめる時代に向けた広報啓発活動を行っている国際長寿センター日本の志藤 洋子事務局長に、私たちが生きるこの時代をデータで確認しながら、豊かな老いとどのように付き合っていけばよいのか、解説をいただきました。
志藤 洋子 氏

国際長寿センター日本(ILC-Japan)
事務局長
志藤 洋子 氏

フレイルとは
私たちは、歳をとってもできるだけ他人の手を借りずに、自分らしく暮らしたいと願っていますが、高齢期には加齢に伴うさまざまな「心身の機能低下」と向き合うことになります。
「老年症候群」と呼ばれる機能低下のうち、視覚・聴覚の衰えやもの忘れ、むせる、歩く速度が遅くなるなどは、おそらく誰もが経験していることでしょう。めまいや貧血、鬱状態なども生じやすくなりますが、それに高血圧や糖尿病など生活習慣病による慢性疾患が加わると「フレイル」と呼ばれる虚弱症状が一気に進むことになります。
「フレイル」は、アメリカの老年学者によって作られた指標により、「虚弱」と判断された状態を表すFrailtyの日本での呼称として、2014年に日本老年医学会が提唱したものです。健康な状態から介護が必要になっていく途中の、中間的な虚弱段階を表す言葉です。
フレイルの概念
フレイル図

出典:平成27年度厚生労働科学研究費補助金「後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究」 平成27年度総括・分担研究報告書

歳だからとあきらめない
フレイルは大きく身体的フレイル、精神的フレイル、社会的フレイルの3つに分けられ、それぞれが相互に影響しあっています。
特に社会的フレイルが高じて社会との繋がりが希薄になると、心身の健康状態がドミノ倒しのように一気に悪化することが、研究の結果、明らかになっています。
また身体的フレイルの中でも、オーラル(口腔)フレイルは高齢者に多い低栄養の原因にもなりやすいため、特に機能が衰えないようにしなければなりません。
フレイル状態を進行させないためにも、健康長寿を支えるさまざまな取り組みや活動には、積極的に関わることが大切です。
フレイル
65歳以上の方のいる世帯

出典:平成27年度厚生労働科学研究費補助金「後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究」 平成27年度総括・分担研究報告書

高齢期において「社会性」を維持する言葉
高齢期において「社会性」を維持する言葉

東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢 作図
出典:厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業「虚弱・サルコペニアモデルを踏まえた高齢者食生活支援の枠組みと包括的介護予防プログラムの考察及び検証を目的とした調査研究」)(平成26年度調査より:未発表)

幸いなことにフレイルは可逆性のあるもの、つまり早めに的確な対応(予防や治療)をすれば、元の状態に戻ることも可能です。「歳だから当たり前」とあきらめたり放置せずに、早めの対応を心がけましょう。
そのためには、自身の健康状態に関心を持ち、こまめなチェックを習慣化しておくことがとても大切で、「いろはにすめし」が合言葉です。
健康長寿のための「3つの柱(三位一体)」
健康長寿のための「3つの柱(三位一体)」

東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢 作図

合言葉は「いろはにすめし」
「いろはにすめし」

出典:「暮らしの健康手帳」公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団編

疾病構造の変化と暮らし
私たちは仮に病気になっても、治療すれば治るものと思っていますが、高齢者の場合は、積極的な治療を行っても、必ずしも元の健康状態に戻れるわけではありません。また特に疾病がなくとも、フレイルなどにより生活機能が低下し、暮らしそのものが成り立たなくなるケースも多くあります。
高齢者の疾患や障害は、さまざまな要素が複合的に重なり合っているため、医療による根本的な解決は困難になってきます。「治癒・救命」から「生活機能改善・人生支援」へ、「治す医療」から「暮らしを支える医療」へと目標が変わり、病と折り合いをつけながら、暮らしの継続をはかることが最も大切なことになってきます。
医療や介護の支えとともに、自分らしく心豊かに良く生きること、寿命の長さだけではなく、その質が問われる時代になってきています。楽しく嬉しいことではないでしょうが、まず自身の老いを自覚し、真摯に向き合ってみることも必要ではないかと思います。
医療大転換
医療大転換

©未来医療研究機構 代表理事 長谷川俊彦

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