老後の住まい

住まいのリフォームについて考える

セカンドライフをよりよく安定的に過ごすために重要なことは、お金と住まいについての不安を少しでも取り除くことです。住まいの理想は、住みなれた環境での生活をなるべく長く継続する「エイジング・イン・プレイス」と言われています。そして、条件の許す限り現在の住居に住み続けたいと希望する割合は、年齢を重ねるごとに高くなっており、実際に、日本では高齢者の9割以上が自宅暮らしです。同居家族がいるか、住居の維持管理が続けられるか、介護が必要になったら・・・など、考慮すべき要素は人それぞれでしょう。健康なうちから住まいについて考え、よりよいセカンドライフをお過ごしいただくための備えとして、「シニア世代のリフォーム」をテーマにお届けします。
シニア世代の住まいの重要性
世の中は健康ブームと言われ、運動や栄養のことは雑誌などでも頻繁に取り上げられますが、住まいについてはあまり語られません。しかし、住まいは病気やけがの原因、療養やリハビリの大きな阻害要因にもなるため、高齢者の健康と密接に絡んでいます。シニア世代の住まいはQOL(Quality of Life; 生活の質)を維持できるものでなければなりません。特に自立度が低下して介護が必要になったときに、居住環境が整っているかの検証が必要です。これは年齢とともに心身がどのように変化していくかということとも密接な関係があります。医療の発達などの結果、平均寿命は延びました。2015年で男性が81歳、女性が87歳です。一方、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」、これを健康寿命と言いますが、この健康寿命と平均寿命の差は、男性は平均9.1年、女性は12.7年もあります。年を重ねれば自立度は低下します。いかに健康寿命を延ばせたとしても、90歳で死ぬ間際までピンピンで健康そのものということは、あまりないでしょう。住み続ける選択をしたのであれば、自立度が低下してもQOLが維持できるよう、住まいをそれに対応した生活の場にすることは決定的に重要なのです。
自立度の変化パターン

出所: 自立度の変化パターン 全国高齢者20年の追跡調査(秋山弘子 長寿時代の科学と社会の構想 『科学』 岩波書店、2010)

リフォームによる居住性の維持・向上
それでは、現在の住居に住み続けながら自立度の低下に対応してQOLを維持するためには、何が必要でしょうか。バリアフリーを含めたリフォームで現在の住まいの居住性を維持することが、まず大切です。このことは、介護が必要になった場合の対応、もしくはその状態に備えるということだけではありません。家庭内での事故を防ぎ、要介護にならないような備えにもなります。65歳以上の高齢者が事故に遭う場所は77%が家庭内です。家庭内の事故発生場所は居室が多く、階段、台所・食堂、玄関、洗面所と続きます。事故の種類ではほとんどが「ころぶ」ですが、起きたときに重篤化する最も危険な事故は「おぼれる」となっており、浴室での事故には充分に注意しなければなりません。また、家具、階段、床・畳が事故を引き起こす設備のトップスリーです。2階建て住宅に階段がついていることはやむを得ませんが、手すりがないと昇り降りに足腰に負担がかかります。玄関や廊下、和室などの段差やカーペットの切れ端でさえ、つまずいて転倒する原因になることがあります。身体機能が低下すると段差はことごとく障害物になりますので、段差解消のリフォームが必要です。ちなみに、ケガは心身機能の急速な低下を招きます。全く身体を動かさなくなると3〜5日で障害が現れ、筋肉は繊維数が減って萎縮し、3週間で半分になります。縮小した筋肉の回復には数ケ月かかり、しかも全部は戻りません。体力が落ちると動くことがおっくうになり、さらに身体機能を低下させる悪循環に陥りやすくなります。ただ、大掛かりな住宅改修までしなくても、上手に福祉用具や家具などを利用することで、ずいぶん暮らしやすくなることもあります。玄関に小さな椅子を置く、上がりかまちに低い踏み台を置く、冬場の脱衣所に安全性の高い小さなファンヒーターを置く、など日頃の生活用品で工夫ができます。
高齢者の事故発生場所
高齢者の事故発生場所のグラフ

出所:平成28年版高齢社会白書

高齢者の事故の原因
高齢者の事故の原因のグラフ

出所:東京消防庁

なお、バリアフリーのリフォームをする際には、併せて住まいの安全・安心を高めるための耐震性や耐久性のリフォーム、快適性を高める省エネのリフォームもするとよいでしょう。窓、床、壁、天井、開口部など、熱が逃げる場所の断熱・気密改修が効果的です。夏は外の熱の71%が窓から入り、冬は逆に室内の熱の43%が窓から逃げます。今ある窓をそのままに内窓を新たにつける、ガラスを取り替えるなど簡単な方法もあります。結露や湿気も出にくくなり、遮音効果もあります。もちろん、光熱費の削減にもつながります。ちなみに、リフォームを考えられている方は、要介護であれば介護保険による資金補助があります。またバリアフリー・リフォームは一定の要件を満たしていれば、所得税控除や固定資産税が軽減される場合があり、積極的に利用すべきだと思います。
ホーム・ダウンサイジング
今の住まいでは、たとえ、リフォームをしたとしても問題が解消しない場合があります。例えば、かつては広く快適に思っていたマイホームも、今は使っていない部屋がたくさんある、掃除や庭の手入れが大変など、逆に持て余してしまうケースはあるでしょう。また、リフォームでも解消しない段差や狭い廊下、急な階段はどうしようもありません。ホーム・ダウンサイジングという言葉があります。ダウンサイジングは「サイズを小さくする」という意味ですので、ホーム・ダウンサイジングは住まいのサイズを小さくするという意味です。駅から遠い高台にある戸建て住宅から、駅に近いコンパクトな間取りの中古マンションに住み替えるのが典型例です。一方で現在の住居そのものを、文字通り小さくすることもホーム・ダウンサイジングです。広い敷地にある大きな家を小さな平屋にしてしまう。あまった敷地は売ることもできますが、立地がよければ賃貸住宅を建てることもできるでしょう。二階建てを一階建てに変える「減築」という手法もあります。また、現住居を二世帯住宅に建て替えるケースでは、ご自分の居住空間を一階部分に縮小するわけですから、これも一種のホーム・ダウンサイジングと考えていいでしょう。ホーム・ダウンサイジングの意外なメリットは、必要ないものを思い切って整理する機会になるということです。大きな家具や着ない服、使わない台所用品、興味をなくした小物類、読まない本...恐らく皆さまにもこうしたものの心当たりがあると思います。しかし、いつか使おうと思っていても、その「いつか」は永遠にやって来ないと、私たちはうすうす感じていないでしょうか。また、自分には宝物でも家族にはガラクタに過ぎず、残されても迷惑という笑えない話もあります。気力も体力もあるうちに、これらを一気に整理する機会になります。ホーム・ダウンサイジングは住まいを小さくするというだけではなく、住まいに合わせて、生き方自体をコンパクトにするということでもあります。
ホームダウンサイジング
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