「コロナ・ショック下の米国経済活動状況」

2020年5月20日

「コロナ・ショック下の米国経済活動状況」

5月に入り、4月の米国経済指標の公表が続いています。中でも雇用統計は雇用者数が2000万人以上減少し、戦後最大の悪化を示しました。その一方で、金融市場は比較的落ち着いた動きとなっています――。

米国では新型コロナウイルスの感染拡大への対策として外出制限や店舗休業が実施されてきましたが、一部の州で徐々に緩和され始めています。4月の経済指標は急速に悪化しましたが、それらは過去の数字です。それでは、現在の米国景気はどのように推移しているのでしょうか。

米国の経済活動の再開状況

ITの発達した現代、携帯電話の位置情報などのビッグデータで経済活動の状況をモニターすることができますが、個人事業の店舗の従業員管理ツールを利用したのが、図1のグラフです。

(図1)米国の事業稼働状況

(2020年1月4~31日の各曜日の平均からの変化率)

(図1)

(出所:Homebaseデータ、Bloombergより作成)

このグラフのデータは、Homebaseというスケジューリング・従業員時間管理ツールを通じて6万超の企業・100万人超の時給労働者から収集されています。このツールは主にレストランや小売業など個人事業の小企業で利用されています。

曜日別の1月の平均から、3月以降どのくらい変化したかを示しています。3月13日の非常事態宣言後、19日にカリフォルニア州が、22日にニューヨーク州が外出制限を実施しており、急速に事業活動が低下し、4月に底這いで推移した後、5月にやや上向いてきていることが見て取れます。

直近の5月13日では、お店の開店状況が35%減、働いている従業員数が43%減となっています。経済活動の状況は「コロナ前」の1月と比して概ね3~4割減といったところです。

4月12日がコロナ・ショック下での最大の落ち込みとなっており、お店の開店状況が65%減、働いている従業員数が75%減でした。  

楽観と悲観の間で身動きできない金融市場

景気悪化の一方で、米国株はかなり戻してきています。5月14日のダウ工業株30種平均は23,623.34ドルで、今年の高値から安値への下落幅の47.7%を取り戻しています。

図1で見たように、経済活動は徐々に再開されていますが、緩やかなペースです。一方で、株式市場は早くも4月半ばに「半値戻し」を達成した後、横ばい圏で推移しています。あたかも、駆け足で先行した株式市場が、徒歩で進む経済活動が追い付いているのを待っているかのようです。

過去に似たような出来事があれば、経済・金融市場に与える影響にある程度のめどをつけることができます。しかし、未曾有のパンデミックの経済への影響や今後の動きを過去のデータから推測することはできません。

株式市場は、大規模な金融緩和や財政出動を考慮して「半値戻し」はしたけれども、ここからの上値は実際の経済の動きを確認しないと難しいのではないでしょうか。明確な先行き見通しを持てないため、楽観と悲観の狭間で「宙ぶらりん」の状況になっているようです。

そのため、先月の経済指標は過去のものとして材料視されづらいですが、図1のように足もとの動きを示すデータや、先行きのヒントとなる企業の業績見通しのニュースには注目が集まるでしょう。

加えて、先行きのヒントという点では、米政府が繰り出す方針・政策も、金融市場に大きな影響を与えるでしょう。株価にマイナスの材料としては、新型コロナや貿易をめぐる中国との対立激化が警戒されます。プラスの材料としては、トランプ政権の経済重視姿勢が注目されます。

米政府の財政出動による経済支援

米国では3月27日に、過去最大規模の2.2兆㌦の経済対策法が成立しました。しかし、追加支援は必至の状況で、全米州知事会が連邦議会に財政支援を要請しているほか、野党民主党が多数の下院では3兆㌦規模の追加経済対策法案が示されています。また、トランプ政権と上院共和党も追加景気対策について協議しています。

米国の財政状況はというと、図2にあるように、4月に急激に悪化しています。財政赤字は名目GDP比で3月の4.8%から4月は9.0%へほぼ倍増しています。リーマン・ショックの時の経済対策で2009年12月につけた10.1%に一気に迫りました。

(図2)米連邦政府の財政状況

(図2)

(出所:Bloombergのデータより作成)

コロナ・ショックへの対応で追加財政支援の可能性が高いため、リーマン・ショック時以上に財政状況は悪化しそうです。短期的には、財政出動は景気支援の材料ですが、長期的には政府債務増加という重荷を米経済は背負っていくことになります。  

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

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