第22回「名目金利か実質金利か、通貨の強弱はどちらで見る?」

2021年3月22日

「名目金利か実質金利か、通貨の強弱はどちらで見る?」

「名目金利差と実質金利差から為替レートをどう考えればいいですか?」――。

最近、若手社員からこのような質問を受けました。今年に入り、新聞報道などで米長期金利の上昇が為替相場の円安ドル高に影響していることが指摘されていますが、名目金利で説明したり、実質金利で説明したりと、頭が混乱している人がいるかもしれません。

新型コロナウイルス感染拡大前後の動向

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、2020年3月13日に米国では非常事態が宣言されました。FRBもまた、大幅利下げに加え量的緩和を再開し、大規模な国債購入に踏み切りました。

図1は2019年7月以降のドル円レートと、名目長期金利・実質長期金利の日米格差の推移を表したものです。実質金利は、物価連動国債の利回りとしています。

日銀もパンデミックに対応して一段の金融緩和を実施したものの、変化の大きさの点でFRBの方が顕著であり、長期金利は名目で見ても実質で見ても、米国が大幅に低下しました。2020年4月以降、緩やかな円高傾向が続いた一因に日米金利差の縮小があることが見て取れます。

(図1)ドル円レートと日米長期金利差

(図1)

(出所:Bloombergのデータより作成)

しかし、2021年に入り、米長期金利が名目でも実質でも上昇したことから、為替相場はドル高に振れました。

ここで疑問が生じます。名目金利差と実質金利差の為替レートへの影響をどう捉えたらよいのでしょうか?

実質金利=名目金利-期待インフレ率

ところで、名目金利・実質金利とは何でしょうか。

名目金利は、まさしく表示されている金利です。例えば、10年物の日本国債の利回りが市場で「0.10%」で取引されている場合、「0.10%」が名目金利です。

一般的に、名目金利・実質金利・期待インフレ率の関係は「名目金利=実質金利+期待インフレ率」という関係式で表されます。これを少し変形すると、「実質金利=名目金利-期待インフレ率」となります。つまり、実質金利は名目金利が一定で変わらなくても、期待インフレ率が上昇すれば低下することになります。

ここで難しいのは、期待インフレ率、すなわち、将来に向けての物価上昇の捉え方です。10年金利の場合、期待インフレ率は今後10年間についての物価上昇の予想・期待ですが、かなり曖昧なものだと言えるでしょう。

なお、図1では、物価連動国債の利回りで実質長期金利の日米差を計算しています。

実質金利の日米差を分解してみる

上述した「実質金利=名目金利-期待インフレ率」の関係式を用いて、日米の実質金利差を、名目金利差と期待インフレ率の差に分解してみましょう。

(図表2)実質金利を分解すると・・・

(図表2)

図2に整理したように、実質金利差は名目金利差とインフレ格差に分解できます。ここで注目したいのは、名目金利の差は、いわゆるリスク選好局面で「高金利通貨買い・低金利通貨売り」の動きが活発化する際に注目されるポイントで、数週間から数ヶ月にわたる中短期の資金運用のニーズから動く資金の流れに影響するものだということです。

一方で、期待インフレ率の差すなわちインフレ格差は、10年20年といった長期的なトレンドに影響するものです。購買力平価を理解している人はイメージしやすいでしょう。

購買力平価を簡単に説明しましょう。今、100円と1ドルがあり、今後、日本の物価は上がらないが米国で物価が上がるとすると、将来に向けて100円は今の100円と同じだけ物を購入する力が維持されますが、1ドルで購入できる物は少なくなります。従って、物価上昇率が低い国の通貨の方が、物価上昇率が高い国よりも強いと考えることができます。

しかし、物価上昇率の差は、特に先進国間においては緩やかにしか変化しません。それを示したのが図3です。

(図3)ドル円レートと日米金利差・物価格差

(図3)

(出所:Bloombergのデータより作成)

図3では、日米の生産者物価上昇率の差を為替レートの傾きという形でグラフに表示しています。残念ながら、物価連動国債から算出される期待インフレ率は最近のデータしかないため、インフレ率は実績値を使用しています。

名目金利差の動き方と物価格差の動き方を比較すると明らかですが、時間軸が違うことがわかるでしょう。実質金利は時間軸の異なる両要素を内包するため、為替レートへの影響を考えるときに混乱してしまうわけです。

外貨での資金運用を考えるとき、名目金利差は中短期の変動要因であり、物価格差は長期的な変動要因であるので、自身の運用の時間軸に合わせて両要素のバランスを考慮することが重要です。10年20年といった長期運用の場合、将来の日本と海外との物価上昇率の差を自分なりに突き詰めて考えておく必要があるでしょう。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

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