退職金の確定申告は?税金が戻ってくるケースをやさしく解説
はじめに
退職金を受け取ったとき、確定申告を行う必要はあるのでしょうか?会社員として働いていると、確定申告が必要となることは少ないです。しかし、確定申告をすることで税金の負担を減らすことができることがあります。
このコラムでは、退職金を受け取ったときに確定申告をする必要があるかどうかを判断する方法や、確定申告をすることでお得になるケースについて、確定申告に慣れていない人でもわかるようにやさしく解説していきます。
「知らない間に税金を支払いすぎていた!」とならないためにも、ここでじっくりとチェックしておきましょう!
退職金の確定申告は必要?
勤務先を退職したときにもらった退職金については、基本的には税金が源泉徴収されるため、受け取った人が改めて確定申告をする必要はありません。ただし、中には確定申告が必要になる人もいるため、しっかり確認しておきましょう。
退職金を一時金でもらう場合
退職一時金にかかる税金は、退職した勤務先が受け取った本人に代わって手続きを進めてくれます。具体的には、退職金を支払う側である会社が税金の計算を行い、退職金を支給するタイミングで、所得税と住民税を源泉徴収して納税を行います。そのため、退職金をもらった人は特段何もする必要がありません。
ただし、源泉徴収される金額は、退職金を受け取る人が「退職所得の受給に関する申告書(以下、退職所得申告書)」を提出していたかどうかで変わるので、注意が必要です。退職所得申告書とは、退職金を受け取る際に、退職金額や勤務年数などに合わせた正しい税額で源泉徴収を行うために必要な書類のことです。
この退職所得申告書を提出していない場合は、退職金の20.42%が自動的に源泉徴収されます。それに対して申告書を提出した場合は、「退職所得控除」という退職金にかかる税金の負担を大きく減らせる制度を使うことができます。退職所得控除を使うことができれば、「退職金をまるごと手にできた!」となるケースも珍しくありません。
つまり、退職所得申告書を出していれば、退職所得控除の恩恵を受けられているので、退職金に関して確定申告を行う必要はありません。申告書を提出してなくても確定申告は不要ですが、支払いすぎた税金を取り戻すためには確定申告が必要です。
資料:筆者作成
退職所得申告書は、一般的には、退職手続きの際に勤務先から申告書の提出について案内されます。できればそのタイミングで忘れずに提出しておきましょう。
退職金を年金形式でもらう場合
定年退職の場合、企業年金や企業型確定拠出年金(DC)などから、退職金を何年にもわたって「年金形式」でもらうケースがあります。この場合、税金は退職一時金と同様に、基本的には受け取るタイミングで自動的に源泉徴収(一律7.6575%)されますが、雑所得として他の所得と合算の上、総合課税されるため、他の所得がある場合や所得控除を利用している場合は、確定申告が必要となります。
ただし、公的年金を受け取っている人には「確定申告不要制度」があり、次の条件をすべて満たしていれば確定申告をする必要がありません。
- 確定申告が不要となる条件(全部満たす場合)
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- 公的年金がすべて源泉徴収の対象
- 公的年金の収入金額の合計額が年400万円以下
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得が年20万円以下
※上記は所得税についての条件です。住民税は確定申告が必要な場合があります。
※公的年金がすべて源泉徴収の対象である場合
資料:筆者作成
自分が確定申告をする必要があるかどうかを判断するためには、「源泉徴収票」を確認してください。源泉徴収票は、支払先ごとに送られてきます。例えば、公的年金の源泉徴収票は、毎年1月頃に日本年金機構から郵送で届きます。外国の公的年金を受け取っている場合などは源泉徴収されないため、自分で確定申告を行う必要があります。
源泉徴収票がもれなく届いていれば、1つ目の条件をクリアしているということです。そして、2つ目の条件はそれぞれの源泉徴収票に書かれた「支払金額」の合計金額を足すことで確認できます。合計額が年間400万円以下であれば大丈夫です。あとは、年金以外に年間20万円以上の所得がなければ、確定申告は不要と判断できます。
このように、3つの条件をすべて満たしていれば確定申告は不要です。ただし、源泉徴収された金額が正しいとは限りません。自発的に確定申告をすることで税金を取り戻せることがあります。
確定申告をすると税金が戻ってくる11のケース
退職をすると、再就職しない限り年末調整が行われません。すると、源泉徴収された税額と実際に支払うべき税額に差が生じることがあります。そのため、自発的に確定申告を行って精算をすることで、払いすぎた所得税を取り戻したり、翌年に支払う住民税を減らしたりすることができます。
したがって、確定申告の時期には必ず、確定申告をしたほうがお得になるケースについてひと通り目を通しておくことをおすすめします。ここでは11のケースを紹介するので、自分に当てはまるものがないかチェックしてみてください。
(1)退職所得申告書を提出していない場合
退職金を一時金で受け取ったときに退職所得申告書を出していなかった人は、確定申告をすると支払いすぎた税金を取り戻せる可能性が高いです。
退職所得申告書を提出していないと、退職金から一律で20.42%の税金が源泉徴収されます。例えば、退職金が2,000万円なら408.4万円もの税金が引かれた上で支払われます。しかしもし勤続年数が40年の人なら、2,200万円もの退職所得控除を適用することができます。確定申告を行えば、源泉徴収された408.4万円を取り戻すことが可能なのです。
自分で確定申告を行う場合は、退職した勤務先から発行される「退職所得の源泉徴収票」を使います。確定申告の時期まで大切に保管しておきましょう。
(2)年の途中で退職・転職した場合
年の途中で退職や転職をしたときは、退職金の確定申告は不要でも、確定申告をすることで「給与所得」に関して還付が受けられる可能性があります。以下の2つのケースに当てはまる場合は、確定申告をするのがおすすめです。
- 年の途中で退職して無職になったケース
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給与をもらうときに天引きされる所得税は、1年間同じ収入が続くと想定した金額です。つまり、支払いすぎている可能性が高いのです。
年の途中で退職をすると、年末調整が行われてないため、自ら確定申告をすることで初めて正しく精算することができます。1月~6月など、年の前半に退職した人ほど差額が大きくなりがちです。必ず確定申告をして、支払いすぎていた税金を取り戻しましょう。
- 転職後の年末調整で前職の源泉徴収票を出さなかったケース
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転職をしたときは、転職後の勤務先で年末調整を行えば正しい税額で納税が完了できます。ただし、転職前の源泉徴収票を提出していない場合は、正しく計算ができません。特に転職により働いていない時期がある場合などは、所得税を支払いすぎている可能性が高いです。
どちらのケースでも、確定申告時には退職した勤務先で発行される「給与所得の源泉徴収票」が必要です。もしも失くしてしまった場合は、退職した勤務先の経理担当者などに連絡をして再発行をお願いしましょう。
(3)生命保険料を支払った場合
生命保険料や個人年金保険料を支払っている人は、「生命保険料控除」を受けることができます。
確定申告の際には、10月~11月頃に(保険料の支払いがまだの契約は支払い後に順次)保険会社から届く生命保険料控除証明書が必要です。確定申告の時期まで大切に保管しておきましょう。
(4)住宅ローン控除が使える場合
住宅ローンや、耐震・省エネ・バリアフリー化のためのリフォームローンを支払っている人は、「住宅ローン控除」を使える可能性があります。
住宅ローン控除を適用するためには、入居した翌年に自ら確定申告をする必要があります。次の年からは勤務先の年末調整で手続きができますが、退職した人は確定申告が必要です。
(5)ふるさと納税などを行った場合
ふるさと納税で都道府県や市区町村への寄付を行ったときや、定められた要件に当てはまる公益社団法人や特定非営利活動法人に寄付をしたときは、「寄付金控除」を受けることができます。
ふるさと納税は、支払う金額を減らす効果はありませんが、寄付額の3割以内のお礼の品がもらえるメリットが注目され、利用者が段々と増えてきている制度です。簡単に寄付金控除が受けられる「ワンストップ特例制度」を利用すれば、確定申告をしなくても税金が正しく精算されます。確定申告に苦手意識がある人でも取り組みやすい制度です。ワンストップ特例制度を使わない場合は、必ず確定申告を行いましょう。
(6)高額な医療費を負担した場合
1月から12月に支払った医療費の自己負担額が10万円(年収200万円未満の人は、総所得金額等の5%)以上となったときは、「医療費控除」を使うことができます。
対象となる医療費は、病院や薬局の窓口で支払った医療費のほかにも、通院費、ドラッグストアで購入した市販薬、自費診療の歯科インプラント、治療目的のマッサージやはり治療など、さまざまです。
医療費控除の申告には基本的には領収書の保管が必要となるため、病院や市販薬のレシートはとりあえず保管しておくのがおすすめです。そして、年が明けたら、昨年の医療費の領収書の合計額を算出し、医療費控除を使えないか確認しましょう。
(7)個人型確定拠出年金(iDeCo)などの掛け金を拠出した場合
個人型確定拠出年金(iDeCo)や小規模企業共済、心身障害者扶養共済制度の掛け金を拠出した場合は、掛け金が全額「小規模企業共済等掛金控除」の対象となります。各制度を利用している人は控除額が大きいので、必ず確定申告をして税金の負担を減らしましょう。
なお、2022年の改正でiDeCoの加入年齢は60歳未満から65歳未満に拡大されました。退職して無職の場合は、国民年金へ任意加入をしていることが条件となります。国民年金への任意加入やiDeCoは、老後の家計を助けてくれる制度です。ぜひ、利用できるかどうか確認してみてください。
(8)天引きされていない社会保険料の支払いがある場合
自分や家族の国民年金保険料や国民健康保険料、介護保険料などの社会保険料を支払っている人は「社会保険料控除」を受けることができます。
年金受給者の場合は、公的年金からあらかじめ国民健康保険料を差し引いて受け取る特別徴収をしていれば、自動的に社会保険料控除が適用されるため(公的年金等の源泉徴収票に載っている社会保険料の額が実際に支払っている金額と合っていれば)、確定申告は特段不要です。
しかし、「配偶者や子どもの年金保険料を支払っている」「国民健康保険料は特別徴収にしていない」など、源泉徴収票に載っていない社会保険料の支払いがある場合は、確定申告をすることで社会保険料控除が適用され、支払いすぎた税金を取り戻すことができます。
(9)扶養家族がいる・家族の状況が変わった場合
家族の状況によっては、所得控除を受けることができます。例えば、18歳以上の子どもがいる人は「扶養控除」、収入が一定以下の配偶者がいる人は「配偶者(特別)控除」が使えます。
退職した後に公的年金等をもらう人であれば、公的年金等の支払者に「扶養親族等申告書」を提出していれば、確定申告をしなくても自動的にこうした控除を受けることができます。
扶養親族等申告書を提出していない場合や、年の途中で家族が仕事を辞めて扶養親族になった場合などは、確定申告をすることで税金が戻ってくることがあります。
(10)災害や盗難にあった場合
台風や地震などの自然災害、盗難、横領などでマイホームなどが被害に合ったときは、「雑損控除」を使うことで税金の負担を減らすことができます。
確定申告には、災害に関連する支出の領収書や、被災状況が確認できる写真などの資料が必要になる可能性があります。災害に関連する資料や証拠は大切に保管しておきましょう。
(11)不動産所得や事業所得などが赤字の場合
給与や年金、退職金による収入がある一方で、不動産所得や事業所得、譲渡所得などで赤字が発生している場合は、「損益通算」をすることで税金の負担を減らせることがあります。
不動産投資や事業を行っている人のほかにも、株式投資などで損失が発生した人も、使える可能性があります。心当たりがある人は確認してみましょう。
死亡退職金や失業手当に確定申告は必要?
最後に、死亡退職金を受け取ったケースや、退職後に失業手当を受け取った場合の確定申告について紹介します。
死亡により相続人に退職金が支払われた場合
退職金の中でも、働いていた人が亡くなったことで遺族が受け取る死亡退職金の場合は、基本的には相続税の対象となります。
死亡退職金には非課税枠があり、法定相続人1人あたり500万円までは非課税です。受け取った死亡退職金の額が非課税枠よりも多かった場合は、相続税の課税対象となるので注意しましょう。
退職後に失業手当を受け取った場合
退職した後に再就職活動をすると、雇用保険から失業手当を受け取れることがあります。
失業手当も収入なので、所得税がかかると思うかもしれません。しかし、失業手当は失業中の生活を保障することが目的となる制度なので、税金はかかりません。そのため、失業手当に関して、確定申告を行う必要はありません。
退職金や各種控除の確定申告方法は?
ここまでに紹介したとおり、退職金に関しては確定申告が不要であることが多いです。しかし、確定申告によって支払いすぎた税金を取り戻せる人もいるので、該当する人は忘れずに確定申告を行いましょう。
確定申告は、国税庁の「確定申告書作成コーナー」などで確定申告書を作成して、所轄の税務署に提出する必要があります。確定申告の期間は、原則翌年の2月16日から3月15日です。忘れてしまわないように、カレンダーなどに記入しておくのがおすすめです。
確定申告の概要
申告期間 | 原則、翌年2月16日から3月15日 |
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提出先 | 所轄(最寄り)の税務署 |
作成方法 |
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提出方法 |
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相談先 |
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確定申告書の作成に慣れていないと、戸惑うことも多いかもしれません。そんなときは、税理士に作成を依頼したり、最寄りの税務署で相談しながら作成したりするのがおすすめです。ちょっとした疑問なら、国税庁の電話相談センターに尋ねるという方法もあります。
税金の負担を減らして家計をラクにするためにも、ぜひ毎年、確定申告をしたほうが良いかをチェックしてみてください!
※この記事は2023年11月末時点の情報に基づいています。
執筆者紹介
張替愛
ファイナンシャル・プランナー(AFP®)、FP事務所マネセラ代表。
株式会社FPコンサルティング提携FP
夫の海外転勤を機に会社員を退職後、2017年に開業。24歳で結婚して家計管理や資産運用に力を入れてきた経験を活かし、保険や投資商品を販売せずに「実際に役立つアドバイス」を提供するマネー相談を年間100件近く行う。コラムや書籍の執筆・監修、取材、講座などの実績も合計300件以上。得意分野はライフプラン設計(教育費・住宅購入・老後資金)、資産運用、保険、ママのキャリアなど。2児の母でもある。
著書『~共働き800万円以下の夫婦でもハッピーライフ~プチ贅沢を楽しみながらムリなく資産を増やす』(ビジネス教育出版社)