9月は厚生労働省が「健康増進普及月間」として、健康増進に関する普及啓発を特に図っていこうとする月だそうです。忙しい日々では、つい、健康について考えるのを後回しにしてしまいがちですので、改めて生活習慣を見直し、気候の良い季節に向けて健康増進のための実践計画を考えるのにちょうど良いタイミングかもしれません。

さて、人生100年時代、身体の健康だけではなく「家計の健康」(ファイナンシャル ウェルビーイング)も忘れてはならないポイントです。今回のコラムでは、ミライ研のアンケート調査を基に、家計の健康状態を住宅ローンの返済比率という観点からお伝えしたいと思います。

借入金額2,000万円以上で、5人に2人は返済比率3割以上

返済比率とは、年収に占めるローン年間返済額の割合です。返済比率(%)=年間ローン返済額÷年収×100で算出することができますので、例えば年収400万円の方が年間80万円ローン返済をしているケースだと、返済比率は20%=2割となります。つまり、年収に対して年間返済額が多くなるほど、返済比率が高くなります。

この返済比率を借入金額別に確認したところ、借入金額2,000万円以上になると返済比率3割以上の割合が増加しており、借入金額2,000万円~3,000万円未満で39.5%、3,000万円~4,000万円未満で39.6%、4,000万円以上で38.7%となっています【図表1】。

図表1 世帯年収に対する返済比率(借入金額別)

*回答者:住宅ローン利用経験者
*借入金額選択肢「わからない、覚えていない」、返済比率選択肢「わからない」を除く
*5.0%未満はグラフ内の比率表記を省略
(出所)特に出所を示していない場合、三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2023年)をもとにミライ研が作成

物件価格高騰もあり、理想の住まいを手に入れるために返済比率の観点からみると少し背伸びをして借入れを行っていることが伺えます。

返済比率3割は、負担感や資産形成両立との分岐点?

では、理想の住まいを手に入れた後はどうでしょうか。意識面と行動面で見てみたいと思います。

まず意識面として、返済に対する負担感についてお伺いしたのが【図表2】です。「負担に感じる」「かなり負担に感じる」と回答された方は、返済比率が高まるほど多くなっており、返済比率4割では半数超(61.2%)となっています。

図表2 住宅ローン返済に対する負担感(返済比率別)

*回答者:住宅ローン利用経験者
*返済比率選択肢「わからない」を除く
*5.0%未満はグラフ内の比率表記を省略

次に行動面としてはどうでしょうか。住宅ローン返済中の資産形成状況についてお伺いしたところ、【図表3】の結果となりました。

返済比率1割では「住宅ローンの返済があるものの、資産形成には取り組んでいる(取り組んでいた)」と回答された方が49.7%と約半数となり、ローン返済と資産形成の両立ができている人が比較的多いことが分かりました。

また、返済比率が高くなるほど「ローン返済と資産形成の両立派」が減少しています。返済比率3割を境に「住宅ローンの返済があるものの、資産形成には取り組んでいる(取り組んでいた)」と「住宅ローンの返済を優先している(優先した)ので、資産形成への取り組みは難しい(難しかった)」の回答の多寡が逆転し、返済比率4割を超えると「住宅ローンの返済を優先している(優先した)ので、資産形成への取り組みは難しい(難しかった)」の回答が半数を超えました。

図表3 資産形成への取り組み(返済比率別)

*回答者:住宅ローン利用経験者
*返済比率選択肢「わからない」、資産形成への取り組み選択肢「この中にはひとつもない」を除く

理想の住まいを手に入れることも、ライフプランの中では非常に大きなウエイトを占めるイベントかとは思われます。しかし、住宅購入後にもさまざまなイベントが想定されます。住宅ローン返済の負担感や資産形成との両立を踏まえたうえで、借入額や頭金の割合、返済期間を検討し、「バランスのとれた借入れ」を形成することが、家計の健康には必要かと思われます。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者矢野 礼菜やの あやな

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。

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