新しいNISAがいよいよ2024年1月からスタートですね。このタイミングで、新しいNISAについて学んでいただけたらと思います。今回の新NISAは、実はユニークな“個性”もあるので、後段でその“個性”もお伝えします。

1. 新NISAの制度って?

NISA制度というのは、少額投資非課税制度といい、「NISA口座内で運用して得た利益には税金がかかりません」という制度であり、日本に住む18歳以上の方が利用できる制度です。従来のNISAと新NISAでは、この原則は変わらないものの、内容が大きく変わりました。

図表1 新NISA制度概要

(出所)金融庁HP「新しいNISA」より当社作成
上記は資料時点において交付されている法令などを元にして作成しています。今後の法令改正などにより、内容が変更となる可能性があります。
(※1)当社では、上場株式・上場投資信託(REIT・ETF)等は取り扱っておりません
(※2)次のすべての条件を満たすものが投資対象
①信託期間が20年以上または無期限であること
②高レバレッジ型ではないこと
③毎月分配型ではないこと

Ⅰ 年間投資枠

従来のNISAは「つみたてNISA」か「一般NISA」を一人一人が選択するものでした。

これが2024年以降のNISAでは、 「つみたて投資枠」と「成長投資枠」という2つの枠ができます。しかも両者は併用可能で、合計で年間最大360万円までという大きな枠になります。個人家計における資産形成がより加速しそうな印象です。

現在の世間における資産形成状況はどうでしょうか。2023年1月に調査したミライ研のアンケート調査では、「資産形成に取り組んでいる」と回答した対象者の年間資産形成額は平均で104万円でした。これを単純に新NISAで取り組もうと思えば、すっぽりNISA枠で資産形成に取り組めそうです。年間枠は十分な額ともいえますので「枠を使い切る・使い切らない」という観点ではなく、あくまで「自分がどう使うか」にフォーカスいただくとよいでしょう。

図表2 年間の資産形成額

(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2023年)
対象:「資産形成に向けての取り組みあり」との回答者(n=7,445)
「わからない、答えたくない」を除く。5%未満はグラフ内の比率表示を省略

Ⅱ 非課税の期間と生涯非課税投資枠

非課税での投資期間は無期限とされました。またNISA制度自体も恒久化されましたので「いつまでの枠か?」を気にしないで利用できるようになりました。生涯非課税投資枠は合計で1,800万円となり、この大きな枠の中で枠の空いた分は再利用しつつ運用ができます。これまでは、非課税枠内で対象資産を売却しても、枠は復活しない“使い切り”方式でした。

Ⅲ 非課税の期間と生涯非課税投資枠

つみたて投資枠は、これまでのつみたてNISAを同様、金融庁の基準を満たした商品が引き続き対象で、手段として積立投資をすることが条件です。一方、成長投資枠は上場株式と、一定の条件を満たす投資信託(①信託期間が20年以上または無期限であること ②高レバレッジ型ではないこと ③毎月分配型ではないこと)が対象です。

なお、成長投資枠を活用する場合は生涯非課税投資枠のうち1,200万円までとなっています。逆につみたて投資枠として1,800万円全額を活用することは可能です。

2. 新NISAを使ってマネープランとしての投資を行ってみる

お伝えした通り、新NISAは大変大きな枠になったため、さまざまな使い方ができます。例えば、若い方や現在投資に回せる資金が少ない方が資産形成を行う場合、22歳から60歳まで38年間、月々4万円で元本は1,800万円になります。30歳から60歳までの30年間のつみたてなら月々5万円、20年間のつみたてならで月々7.5万円で1,800万円となります。

また、例えば退職金が入った方など資産に余裕がある方は、最短では年間360万円×5年間で1,800万円になります。とはいえ、「生涯非課税投資枠をフル活用する」ことをゴールにすることが大事なのではありません。大切なのは、みなさんが自分自身のライフプランに応じて、目指す金額にむけてしっかりコツコツ(かつ無理しないで)運用していくことです。

一方、このようにマネープランとしての投資(※外部サイトへ遷移します。)を行っていると、資産運用の方針を見直すことも出てくることが想定されます。今回は、そういった面も含めて生涯活用するときに留意しておきたい新NISAの“個性”があることもお伝えします。それが、

(1)非課税枠の管理は簿価

(2)非課税枠の復活は翌年

という点です。

将来、NISAの運用を見直そうかな、と思ったときに、このルールを理解しておくことがポイントです。

3. 新NISAの個性はパン作り⁉

これらのポイントを解説するために、NISAの生涯非課税投資枠を、パンづくりにおける「パンの焼き型」と見立てます。パン生地を入れる焼き型が、NISAの生涯非課税投資枠だとすると、パン生地はNISAへの投資額です。焼き型いっぱいにパン生地を流し込むと、ちょうど1,800万円分の投資が投資枠に詰まったイメージです。

まず「(1)非課税枠の管理は簿価」についてですが、焼き型に入れたパンの容積自体が簿価です。ここでは枠を全部埋めれば簿価基準1,800万円ですが、パンはやけて膨らんだり、うまく膨らまずにしぼんだりする可能性があります。これが、投資の世界では利益が出て膨らんだり、損失で減ってしまうイメージです。ただ、焼き型自体はパンが膨らんだりしても変化しない。つまり、購入したファンドの時価が大きく膨らんでもNISAの非課税枠自体には影響を及ぼさない、ということになります。

例えば、1,800万円のパンについて、時価ベースで360万円収益が出て、上に膨らんで2,160万円になっているものの、焼き型は1,800万円しか使っていない、ということです。一方、ファンドの売却時は、「パンを輪切りにする」イメージになります。ですので「売却によって空きができる生涯非課税投資枠」は、もともとパン生地が入っていたスペースになる、ということです。

360万円分を売却したわけですが、簿価としてパンの焼き型のスペースが空くのは300万円になります。

(※投資しているファンドが1銘柄である前提です。複数ファンドがある場合は、それぞれの銘柄において時価ベースでの損益は異なります)

図表3 NISAの非課税枠管理は“パンの焼き型”と一緒?

(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

続いて「(2)非課税投資枠の復活が翌年になる」についてですが、NISAの単位は基本「年」です。投資枠の上限も、まず「年」で定められていましたが、生涯非課税投資枠のチェックも「年」単位なので「今年空いた枠」を年末で確定させ、空いた枠については、「翌年以降」に活用するということです。そのため、フルに1,800万円を活用している場合には、NISA口座内で「ファンドを売って・別のファンドに乗り換える」といった手続きが“同年内”では行えません(加えて、投資額の上限はそれぞれの年間投資枠の範囲であることにも留意が必要です)。

図表4 投資枠の復活は“翌年”

(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

さて、これらの2つの特徴を踏まえて、具体的なケースで見ていきましょう。

図の①では、1,800万円の投資資金(簿価)に20%の運用収益が生じて2,160万円になっています。時価ベースで360万円分(簿価ベースで300万円)を売却すると、使用中の非課税枠は1,500万円になりますが、当年度中③は枠が復活しません。

翌年の④になると、300万円分の枠が復活しますので、300万円までは投資できます。本来は②の通り、運用益がある資産を売却したことで、当時は360万円売却した資産を持っていたはずですが、簿価ベースで管理しているため、手元の360万円全額をNISAの非課税枠に投じることはできないことになります。

図表5 運用見直し時の新NISAの枠管理イメージ

(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

この個性を踏まえると、例えば若年のうちはリスクを取って積極的な資産運用をしていたが、セカンドライフにおいては資産を“守る”ことを見据えてリスクを落とす運用をすると考えた場合には、非課税投資枠を埋めきってから運用の見直しを考えるのではなく、枠が余っているうちから積み立てる資産のリスクを徐々に落としていくなど、余裕をもって生涯の投資戦略にそった新NISA枠の活用術を考えてみることが考えられます。

図表6 生涯における新NISAの活用イメージ

(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

新NISA自体は非常に使いやすく、一生涯付き合えるパートナーとなったわけですが、それ故、資産の見直しなどを考える際にはこういった個性も理解しつつ付き合っていきたいですね。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者清永 遼太郎きよなが りょうたろう

2012年に三井住友信託銀行入社。千葉支店勤務後、2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びに金融リテラシーに関するコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。
2022年老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。ウェルビーイング学会会員。
三井住友信託銀行公式YouTubeチャンネルにて、「信託さん」として出演! 人気の「教えて!信託さん【資産形成編】」シリーズは、累計80万回再生超!!

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