「いよいよ決戦が迫る米大統領選挙」
2024年10月31日
「米大統領選挙は11月5日に投票、12月16日に選挙人団による投票、2025年1月6日に連邦議会で当選結果を確認」――。
先行き不透明感の最大の要因である米大統領選挙の投票日が迫っています。2020年の選挙では投票が終了した後に、連邦議会での結果確認をめぐり議事堂襲撃事件が発生し、米国社会の分断の深刻さを強烈に印象付けました。
米大統領選挙後のドル円レート
ロシアによるウクライナ侵攻、中東での紛争の激化、中国による台湾侵攻の可能性など、地政学リスクは年々高まってきており、金融市場を予測するにあたって経済動向に加え国際政治への目配りが重要になっています。そのため、先行きの不透明感が濃い状況が続いています。
先行き不透明要因というと、投票日が11月5日に迫った米大統領選挙は直近で最大の不透明要因ではないでしょうか。その大統領選挙が為替レートにどのような影響を与えるか、過去の動きはあまり当てにならなくなってはいますが、大統領選挙投票日前後のドル円レートの動きをまとめたのが図1です。
(図1)米大統領選前後のドル円レート
(出所:Bloombergのデータより作成)
1976年以降12回の選挙について投票日を100としてドル円レートを指数化し、大統領当選が民主党・共和党だった場合のそれぞれの平均と、2016年のトランプ氏当選時、2020年バイデン氏当選時について推移を示しています。また、今年については、10月15日までの推移を実数値で示しています。
1976年以降の平均では、共和党候補当選の方が民主党候補当選よりも円安ドル高で推移しましたが、選挙前後の経済環境や金融政策の状況にも大きく左右されるため、共和党だから円安ドル高と単純に捉えない方がよいでしょう。
ただし、2016年のトランプ氏当選時は結果判明直後からドル高が急に進んだため、トランプ氏返り咲きとなれば瞬間的な反応としてドル高となりそうですが、その反応が長続きするかどうかは、不透明と言わざるをえないでしょう。
米大統領選挙をめぐる不透明感
その不透明な米国の政治イベントですが、どの程度の不透明度合なのでしょうか。
図2は全米独立企業連盟(NFIB)が公表している米国の中小企業を対象とした調査で、景況感に関するいくつかの質問に対する回答で「わからない」・「不明」の割合を指数化したものです。中小企業にとって、先行きが見通しし易いか、見通しにくいかを示しています。
(図2)米国中小企業景況感の不確実性指数
(出所:Bloombergのデータより作成)
データは月次で公表されており、最新データは2024年9月で103と過去最高に上昇しています。指数の高さは不確実性が高いことを示しますので、中小企業にとって先行きが良く見えない状況になっているようです。図2には大統領選挙投票日の月を▼印で示していますが、4年毎の大統領選挙のタイミングで不確実性は高まりやすい傾向が見て取れます。「オクトーバー・サプライズ」という言葉があるように、米大統領選挙の前月にあたる10月に選挙結果に強く影響するような出来事が発生する傾向があります。
また、不確実性指数は2016年以降にそれ以前よりも高い水準で推移しています。2016年のトランプ氏対ヒラリー・クリントン氏の選挙戦も、2020年のバイデン氏対トランプ氏の選挙戦も直前まで支持率がかなり拮抗していました。今年のハリス氏とトランプ氏の支持率もかなり拮抗しているので、どちらが当選するか不透明なことが、不確実性を高めているでしょうし、社会の分断から採用される政策が「振れる」ことも、企業の投資環境の不透明感につながっていると考えられます。
議会の多数派政党との組み合わせが重要
2016年の大統領選挙でトランプ氏が当選した際は大型減税の公約が意識され、金融市場は米国株高・米長期金利上昇・米ドル高に大きく動きました。同時に、共和党が連邦議会の上院・下院の多数派となったことも、トランプ氏の公約実現を後押しすると見られました。
減税法案を成立させるには上下院で賛成を得ることが必要です(そもそも大統領は議会に法案を提出できません)。ですので、上下院で大統領と同じ政党が多数派となれば、大統領の公約の実現性が高まります。
11月5日には上下院議員選挙の投票も実施されます。上院の3分の1議席と下院の全議席が改選されます。上院については改選対象の多くが民主党議員であるため、共和党が過半数を獲得するという見方が優勢です。しかし、下院については大統領選と同様に拮抗しており、大統領と議会の組み合わせがどうなるか、まさに不透明な状況です。
可能性がある程度高い想定としては、「大統領トランプ氏、上院共和党、下院民主党」もしくは、「大統領ハリス氏、上院共和党、下院民主党」で、これらのケースでは政策運営がしにくい状況になりそうです。また、ハリス氏が大統領に当選した場合、トランプ氏支持者が選挙結果への不服から社会混乱を招くこととなれば、株安・ドル安につながるリスクがあることも警戒しておくべきでしょう。
ただし、下院はまだ情勢が拮抗しているので、「大統領トランプ氏、上院共和党、下院共和党」という、いわゆる「トリプルレッド」の可能性も残っています。この場合は2016年と同様に、選挙結果が判明すると米国株高・米長期金利上昇・米ドル高で反応するものと思われますし、その動きも瞬間的なものではなく、やや長続きする可能性があります。
(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)
《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客さまご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》
執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ
三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト
1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。
執筆者関連書籍のご紹介
「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック(NHK出版)」
「60歳までに知っておきたい金融マーケットのしくみ(NHK出版)」
※NHK出版のWEBページに移動します。