第2回 大賞作品

娘にとってすごい人 田中典子(和歌山県 29歳)

小さな太陽

選定委員:穂村 弘(歌人)

 「ゴミ収集車」の「おじさん」に、公園で遊んでいる「小学生の男の子たち」に、そして洗い物をしている「ママ」に、大きな声で「すごいなぁ!」と云う女の子がいる。名前は美都ちゃん。年は三歳だ。褒めて伸ばすっていう言葉があるけど、美都ちゃんは世界を褒めて伸ばす天才なんじゃないか。
 ところが、実際にお母さんの田中典子さんにお話をうかがったら、その考えは少し違っていることがわかった。
 「『すごいなぁ!』って別に相手を褒めてるんじゃないんです」
 「え、じゃあ、なんなんですか」
 「ひとりごと。ただ、大声で叫ぶから相手にも聞こえちゃうんです」
 そうか。美都ちゃんは、心から感動してるだけなんだ。それが自然に言葉になって溢れてしまう。なんてかっこいいひとりごとなんだろう。
 思えば現代の社会には、不寛容や冷たいダメ出しが溢れているのではないか。誰もが心の余裕を失って、他人を認めたり、許したり、受け入れたりすることが苦手になっている。そんな中で、三歳の女の子の「すごいなぁ!」は輝いている。
 他にもさまざまな時に、美都ちゃんの口からこの言葉が飛び出すらしい。ホームセンターで木を切ってくれた店員さんに、おもちゃの電池を取り替えてくれたパパに、そしてスーパーの重い買物袋をいっぱい下げたママに、「すごいなぁ!」と叫び続ける。田中さんのお話では「自分ができやんことをしてる人はみんなすごいらしいです」とのこと。
 美都ちゃんは感動で燃えさかる小さな太陽のようだ。もしかしたら、この世界とそこに生きる人間の本当の可能性を知っているのは、我々大人ではなくて、彼女のほうなんじゃないか。