第4回 大賞作品
たった、それだけで 宮崎 祐希(長野県 27歳)

深夜、誰も知らない命の物語
選定委員:
「ごめんなさい。死にたいんですけど、どうしたらいいですか」
深夜2時。19歳の祐希さんは地元の警察署の生活安全課に、泣きながら電話をした。若そうだが、穏やかな声の男性が出た。
「迎えに行くから、とりあえず落ち着き」
「あの……、サイレン鳴らしてもらったら困るんですけど」
家族に内緒でそっと家を出て坂道を下ると、パトカーが停まっていた。
「宮崎さん?」「はい」「乗り」。
スチールの机と椅子がある署の個室で、警官は熱いココアを出してくれた。そして黙って最後までうんうんと聞いてくれた。
「説教も、いい悪いも言わない。最後まで話を遮らずに大人に話を聞いてもらったこと、私、あれが初めてでした」。
で、27歳という警官が最初に言ったのが「睫毛長いじゃん」。9年前の話だ。今、どの警官もそうするのか、正しい法規を私は知らない。ただ、どう考えてもそれは正義そのものだ。誰にも褒められず、認められず、やることがうまくいかず、友達もいない。生きる意味を見失った少女に、全力で、だけどさりげなく、精一杯真摯に向き合った。睫毛は、「あなたは生きる価値のある人間だよ」の言い換えだと彼女にもわかった。誰も知らない深夜の一室で、警官はたしかにひとつの命を救ったのだ。夜明け前に帰宅した祐希さんは思った。──夢だったのかな。
その警官は見事だ。命を救った挙句、時を経て大賞という贈り物まで彼女にしたのだから。名もなき公人の、隠れた尊い行為に光を当てた祐希さんに、最大の賛辞を送りたい。
深夜2時。19歳の祐希さんは地元の警察署の生活安全課に、泣きながら電話をした。若そうだが、穏やかな声の男性が出た。
「迎えに行くから、とりあえず落ち着き」
「あの……、サイレン鳴らしてもらったら困るんですけど」
家族に内緒でそっと家を出て坂道を下ると、パトカーが停まっていた。
「宮崎さん?」「はい」「乗り」。
スチールの机と椅子がある署の個室で、警官は熱いココアを出してくれた。そして黙って最後までうんうんと聞いてくれた。
「説教も、いい悪いも言わない。最後まで話を遮らずに大人に話を聞いてもらったこと、私、あれが初めてでした」。
で、27歳という警官が最初に言ったのが「睫毛長いじゃん」。9年前の話だ。今、どの警官もそうするのか、正しい法規を私は知らない。ただ、どう考えてもそれは正義そのものだ。誰にも褒められず、認められず、やることがうまくいかず、友達もいない。生きる意味を見失った少女に、全力で、だけどさりげなく、精一杯真摯に向き合った。睫毛は、「あなたは生きる価値のある人間だよ」の言い換えだと彼女にもわかった。誰も知らない深夜の一室で、警官はたしかにひとつの命を救ったのだ。夜明け前に帰宅した祐希さんは思った。──夢だったのかな。
その警官は見事だ。命を救った挙句、時を経て大賞という贈り物まで彼女にしたのだから。名もなき公人の、隠れた尊い行為に光を当てた祐希さんに、最大の賛辞を送りたい。