第6回 大賞作品
「あ」じゃなく「お」 小松 愛子(神奈川県 58歳)
たった一音の違いで
選定委員:穂村 弘(歌人)
「あ」じゃなく「お」とは、なんとすごい発見なんだろう。幼稚園の年長さんと云えば生まれてまだ数年、言葉だって覚えたてだろう。それなのに、ママよりも先にちゃんと気づいていたのだ。「あ」の後には嫌な言葉が「お」の後には嬉しい言葉がやってくる、と。たった一音の違いですべてが変わってしまう。そのデリケートさと怖さを大人の方が教えられる。だからこそ、作者の小松さんはその言葉を息子さんが御自身の家庭を持った今も大切にしているのだろう。
「先日、息子に電話して聞いてみたんです。『覚えてる?』って」と小松さんは云った。
「ちょっと無理でしょう。幼稚園じゃ」
「それが覚えてたんです。『歯磨きのチェックのために、あーんと開けた口の中を覗かれてる時とか、「あ」って云われるんじゃないかってどきどきしたなあ』って」
なるほど。「あ」の後には「虫歯!」が来るんだろう。口を開けてる本人にはなんにも見えないから、いっそうショックが大きいに違いない。ちゃんと覚えてるんだなあ。
「ところで、お母さんと息子さんのそんなやり取りをお父さんはご存じでしたか」
「いえ、ぜんぜん。今回の応募作を読んで初めて知ったみたいです。『僕にも「あ」じゃなく「お」って云って』って……」と小松さんは笑顔になった。
「先日、息子に電話して聞いてみたんです。『覚えてる?』って」と小松さんは云った。
「ちょっと無理でしょう。幼稚園じゃ」
「それが覚えてたんです。『歯磨きのチェックのために、あーんと開けた口の中を覗かれてる時とか、「あ」って云われるんじゃないかってどきどきしたなあ』って」
なるほど。「あ」の後には「虫歯!」が来るんだろう。口を開けてる本人にはなんにも見えないから、いっそうショックが大きいに違いない。ちゃんと覚えてるんだなあ。
「ところで、お母さんと息子さんのそんなやり取りをお父さんはご存じでしたか」
「いえ、ぜんぜん。今回の応募作を読んで初めて知ったみたいです。『僕にも「あ」じゃなく「お」って云って』って……」と小松さんは笑顔になった。