第6回 大賞作品

バレンタイン地蔵 木﨑 俊造(大分県 65歳)

魂を慰めるギフト

選定委員:大平おおだいら 一枝(ライター)

 「え、バレンタイン地蔵ってなに?と、すぐには事情をのみこめませんでした」
 昨年6月、亡き姉の母校のOB会から電話が来た。1970年2月14日に20歳で亡くなった姉を偲んで両親が事故現場に建てた地蔵の意外な通称に、木﨑さんは驚いた。見ず知らずの若者たちの間で、姉の化身が幸福のシンボルとして愛されていたとは、どれほど心がやわらいだことだろう。
 「嬉しくてありがたくて。高1で姉を亡くして以来、僕にとってバレンタインデーは思い出したくない日でした。友達が騒いでいても一人冷めてた。でも、それを聞いたとき、ああと心から安らいだ。で、この作品を書いたのです」
 投函後まもなく、2019年のバレンタインデーがやってきた。
 彼は「チョコは娘と妻からだけですが、初めて楽しいと思えた。今年は特別な2月14日でした」と微笑む。
 仏教とキリスト教が合体した不可思議な名を持つ地蔵は、50年間笑えなかった2月14日の木﨑さんを、初めて笑顔にした。
 長い間、周囲には一人っ子と言い、生死にまつわるニュースにも、どこかで人の死とは、どうしようもないものという虚無の気持ちを拭えずにきた。高1以来、泣いたのは母の葬式の1度きりだ。
 私は彼が抱える喪失の圧倒的な深さに、胸が締め付けられた。だが、絶望ではない。見知らぬ誰かを、姉が今も喜ばせていることに癒やされ心繕い、喪失の記憶に小さなひと区切りをつけた弟の、これは希望の物語である。