第7回 大賞作品

たからものさん 戎 晃子(岡山県 38歳)

優しさの循環

選定委員:大平おおだいら 一枝(ライター)

 4歳、8歳、10歳の5人家族。共働きの戎晃子さんは、子煩悩で家事が得意な夫と助け合ってきた。
 だが、昇格と共に余裕を失っていく。
「夕方五時五〇分に車で会社を出て、六時半に学童クラブ、四五分に保育園で子どもを拾います。七時半までに食事を作り、子の就寝後は持ち帰った仕事を。お迎えもぎりぎりでつねに誰かしらに“ごめんなさい”と謝ってる。悪いことをしていないのに、どうして私はいつも謝ってばかりいるんだろうと思ったら、苦しくなって……」
 その日、なんとか食事を作り終えると、夫に片付けを託し、寝込んだ。布団に入ると急に涙が溢れ出す。
 と、子どもたちが来て布団に潜り込み、「ママ。どうしたの?」。「なんでもないよ」「違うよ泣いてるじゃん」と長男。そして、あの、たからものさんの呪文が出た。「そうだよー、ママはたからものさんだよー」と兄を真似る次男と娘。
 翌月、社を退き別の関わり方で役に立ちたいと伝えた。
 仕事と家族が一番で、「自分は圏外だった」という彼女は、母になって初めて心の内側に目を向けた。―自分は何が好きだったろう。答えの一つが、本作に実った。「書くことが好き。これはとても久しぶりに、自分のために書いた文章です」。
 呪文の愛は戎さんに還り、わたし遺産として再び家族に還った。人から人へ、優しさは巡る。
 次にやりたい仕事の夢ができたという彼女が、救われた呪文を胸に、自分らしく働き続けられるよう願っている。