突然ですがみなさま、学生時代に学んだことで、どのくらいのことを覚えていらっしゃいますか。筆者自身は、学生だった時分、せっせと勉学に励んでいたものの(都合よく記憶しているだけかもしれません)、今でも知識としてはっきりと覚えているものは、ほんの一部といった印象です。

ではみなさん、「金融」について学校で学んだ記憶はございますか。おそらく大半の方が、“No”ではないでしょうか。といいますのも、「金融」について学校で学ぶ機会は、2019年に改訂された学習指導要領から明確に組み込まれたためです。「金融」を含めた新たな知識がカリキュラムの中に組み込まれた背景には、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力をはぐくむ『社会に開かれた教育課程』の実現」という思いがあります。

「金融教育」が学校の中で扱われるようになった底流としては、①2022年4月から成年年齢が20歳から18歳へ引下げられることを踏まえ、成年としての意思決定の重要性を学ぶ必要がある、②「人生100年時代の到来」(第1回コラムリンク)により、国民一人一人が安定的な資産形成を実現し、自立した生活を営む力が求められる、③諸外国に比べて日本の金融リテラシー度は低いという結果が出ているといった点が挙げられます。

では実際に、「金融」がどの様に子どもたちの学びの中に盛り込まれているのでしょうか。

これからの子どもたちが学ぶ令和の金融教育

どの程度の難易度で語られるかは子どもの年齢に応じて異なりますが、ベースとなっている考え方は下図のようになっています。

【図表1】

外部知見の適切な活用→家計管理→生活設計→金融経済知識→外部知見の適切な活用

(出所)「最低限身に付けるべき金融リテラシーについて」(金融庁)より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成。

「家計管理」の項目では、収支管理を学びます。若年層の消費者被害防止のための知識、自身のお財布に入ってくるお金と出ていくお金を、家計簿などを活用しコントロールしていきましょうということを伝える内容となっています。「生活設計」の項目では、ライフプラン・マネープランに関して学びます。自身がどういった人生を送りたいのかを考え、その実現に必要なお金がどの程度なのかを知る内容です。「金融経済知識」の項目は、かなり広範な内容となっています。資産形成の視点を含め、金融環境や金融商品(預貯金、保険、株式、債券、投資信託など)、金融取引の基本やローンの仕組み・注意点などが含まれます。「外部の知見の適切な活用」の項目では、金融商品の利用に外部の知見を適切に活用する必要性についてです。

この内容、みなさまはどの様にお感じになられましたか。一部のニュースでは、金融商品として株式や投資信託について学ぶという点が強く着目され、「子どもに金融教育なんて、単に投資を誘発するための手段ではないのか」といった意見も聞かれます。しかし、全体をご覧になった方からは、「私も、できれば学生時代に教わりたかった」という声も寄せられており、『お金の話が人生の必須科目になってきた』ともいえそうです。

日本に「金融教育」は根付くのか?

「金融教育」の授業は、小学校は2020年度、中学校は2021年度より既にスタートしており、また高等学校においても2022年度から年次進行でスタートすることとなっています。この「金融教育」の内容は、実践してこそ活きる知識であり、学生時代に学んで終わりではなく、学び続けることが重要です。そうであれば、今、学生の方々が学び始めるタイミングで、学校では(残念ながら)学ばなかった我々も「共に学び実践していく」ことが、金融教育を日本全体に定着させていく取り組みの1つになるではないかと思います。

多くの方が金融に関する知識を身に付け、それを上手に活用することで、一人一人の人生がより豊かになり、ひいては社会全体の豊かさにつながっていく、そんな姿が望まれます。社会に向けて開かれた金融教育の始まり、それは「ファイナンシャル・ウェルビーング(Financial Well-being)*時代」の幕開けともいえるのではないでしょうか?

*ファイナンシャル・ウェルビーング(Financial Well-being)…世の中の人、一人一人が経済的に安心・安定した豊かな状態

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者矢野 礼菜やの あやな

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2014年に三井住友信託銀行入社。堺支店、八王子支店にて、個人顧客の資産運用・資産承継に関わるコンサルティングおよび個人顧客向けの賃貸用不動産建築、購入に係る資金の融資業務に従事。2021年より現職。

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