第10回 大賞作品

おじいさんの小石 山本 ひろ子 (神奈川県 73歳)

生きている言葉

選定委員:穂村 弘(歌人)

 「ハチマキ山に象の形の霜がおりると、冬がくるなあと思いました」。その言葉を聞いた瞬間、風景が心に浮かんだ。「おじいさんの小石」は細部の描写が魅力的な作品だが、ご本人に伺ったお話もまた、文章と同じように臨場感に溢れていた。
 「石がそんなに温かくなるんですね」と尋ねると、「ほら、石焼きビビンバだってそうでしょう」というお答え。思わず「ほんとだ」と笑ってしまった。山本さんの言葉は生きているみたいで、どんどん話が弾んでゆく。「冷めた小石をちゃんとおじいさんのところに戻すのも面白いですね。一種のリサイクルというか」「ええ、包んでいた新聞も一緒にね。あの頃は新聞紙も貴重でしたから」。今なら一人ひとりが使い捨てのカイロを持って行くところだろうか。子ども用のカイロもあるらしい。だが、山本さんが小学生だった昭和三十年代には、もちろんそんなものはない。小石と新聞紙でたくさんの子どもたちの体を温め続けたおじいさんのアイデアと行動力に改めて感動を覚える。
 お話の終わり際に何気なく「『おじいさんの小石』は映画の場面みたいですね」と言うと、山本さんはいたずらっぽく微笑みながら「だとしたら、おじいさん役は柄本明さんですね」とおっしゃった。「ああ、あんな感じなんですね」「ええ、無口で、ちょっと上目遣いでね」。その姿がありありと目に浮かんでしまった。面白いなあ。