第3回 大賞作品

父がくれた皆勤賞のシャーペン 下野谷 涼子 (宮城県 21歳)

「ありがとう」の幸福な循環

選定委員:大平おおだいら 一枝(ライター)

 たとえば、我が子がどんな慰めや優しい言葉も通用しないくらい決定的なダメージを受けて落ち込んでいるとき、親はどうすることができるだろう。
 その答のひとつを、涼子さんの作品から教えてもらった気がする。
 帰省中の東京のご実家を訪ねると、物静かな彼女と母上、ひょうひょうとした風情の父上が迎え入れてくれた。みなで話したらば、「涼子、このシャーペン使ってないだろう」「だって重いんだもん」と父娘、互いに容赦がない。そう、家族ってこういうもの。遠慮がないから歯に衣着せない。ちなみに、大賞の知らせを受けたとき、ひとり暮らしの仙台から、父に作品をメールで送ったら、ひとこと「やったね。」だけだったらしい。でも本当は、性格が似た者どうしという涼子さんならわかっているはずだ。父がどれほど嬉しかったかを。その証拠に、最後に父上がこう教えてくれた。
 「浪人がわかったとき、力づけてあげようと思って、立ち寄った書店で買い求めたのです。御礼がこんな形で戻ってくるなんて本当に想定外でした」
 シャーペンをもらったとき、御礼が言えなかったんです、と涼子さん。受賞がありがとうの代わりになった。
 私はほっこりあたたかな気持ちで、下野谷家をあとにした。わたし遺産とは、応募者だけでなく、描かれた相手や周りの人をもちょっぴり幸せにする。なんと稀有な企画であることよと思いながら。