第8回 大賞作品
未更新のカーナビ 鷲見 隆司 (岐阜県 60歳)

永遠の地図
選定委員:穂村 弘(歌人)
岐阜県で先生をしていた鷲見さんに、被災した宮城県の小学校への派遣の話があったのは、震災の直後だったらしい。「まだ余震も続いている時に、しかも単身赴任という形で、奥さまは反対されなかったのですか」と尋ねると、「『あなたは行くべき。本当は私だって行きたい』と云われました」という答えが返ってきた。鳥肌が立った。凄い言葉だ。
その言葉に背中を押されて向かった現地では、児童や保護者のさまざまな相談に乗っていたそうだ。友だちが津波に流される夢を毎晩見ると泣きながら訴える子がいた。通っていた学校が壊滅状態になって転入してきた子もいた。その子らの気持ちに寄り添うために、鷲見さんは自分の車で失われた家や壊れた学校の跡地を見て回ったという。
やがて任期を終えて岐阜に戻ってからも、カーナビを更新しないことに決めた。その発想に驚かされる。そして、毎年夏休みごとに同じ車で現地を訪れていた。時が流れ、復興が進むにつれて、どんどん風景が変わってゆく。でも、鷲見さんの車には今も震災前の情報が残されている。それはみんなの心の中にある町の地図だ。だから、どんなに風景が変わっても、思い出の場所に辿り着くことができるのだ。
「あの、でも、岐阜でも普段その車に乗ってるんですよね」と聞いてみた。「はい」というお答え。「カーナビが古いと困りませんか」「ええ。使えません。でも、近所の道はだいたいわかりますから」と鷲見さんは笑顔だった。
その言葉に背中を押されて向かった現地では、児童や保護者のさまざまな相談に乗っていたそうだ。友だちが津波に流される夢を毎晩見ると泣きながら訴える子がいた。通っていた学校が壊滅状態になって転入してきた子もいた。その子らの気持ちに寄り添うために、鷲見さんは自分の車で失われた家や壊れた学校の跡地を見て回ったという。
やがて任期を終えて岐阜に戻ってからも、カーナビを更新しないことに決めた。その発想に驚かされる。そして、毎年夏休みごとに同じ車で現地を訪れていた。時が流れ、復興が進むにつれて、どんどん風景が変わってゆく。でも、鷲見さんの車には今も震災前の情報が残されている。それはみんなの心の中にある町の地図だ。だから、どんなに風景が変わっても、思い出の場所に辿り着くことができるのだ。
「あの、でも、岐阜でも普段その車に乗ってるんですよね」と聞いてみた。「はい」というお答え。「カーナビが古いと困りませんか」「ええ。使えません。でも、近所の道はだいたいわかりますから」と鷲見さんは笑顔だった。