第8回 大賞作品

酔えん 小林 浩子 (東京都 51歳)

自信満々、子どもを信頼

選定委員:栗田 亘(コラムニスト)

 ともかく並みの酔いやすさじゃなかったと、小林浩子さんは言います。「走っているクルマの窓から犬が首を出して風のにおいをかいでいる。あれが私でした。家のクルマに乗ると、初めからずっと首を出して、それでもダメでした」
 手作りペンダントの効き目はあらたかだった。「ともかく母が自信満々でしたから」。数日後、小袋の一円玉四枚を見つけて拍子抜けしたものの、それから酔う度合いは少しずつ減っていきました。
 「ずっとあとで聞いたら、担任の先生と共謀したようなんです。まだ子どもだからおまじないが効くんじゃないですかって言われて」。そこで四円=酔えんの駄じゃれ、いえ呪文を発明したらしい。
 母親のミツエさんは、ともかく明るく、さっぱりした性格なのだとか。「子どもがやりたいことにダメと言ったことがないんです。いいわよ試してみれば、と許す。妹も私ものびのび育ちました」
 子どもを信頼し続けたミツエさんですが、一度だけ揺らいだことがあるそうです。
 「私が大学を受けるとき、代わりに受験料を払い込みに行ってもらった。ところがそのまま戻ってきた。申し込みの列が長ーくて、あれじゃ受からないよと。あわてて私が払い込みに行って、幸い志望校に入れましたけれど」
 いまだに感謝していることがもう一つ。小林さんはちょっと力を込めました。「小学校の同級生は、酔いやすくていつも迷惑をかけていた私を、決して除け者にしなかった。どんなに救われたことか」