第9回 大賞作品

黒豆のクギ 小野 京子 (神奈川県 61歳)

人もしきたりも昔から
繋がってきた

選定委員:栗田 亘(コラムニスト)

 クギは3本あって長さは10~15センチ、武骨ながら存在感にあふれています。これをまとめてガーゼに包み、一晩水に浸けた黒豆の大鍋に入れる。コトコト煮ること8時間、見事な照りの一品が出来上がります。
 小野家の父方の「故郷の家」は常磐線沿線にあり、毎年一族30数人が各地から集い正月を祝います。過去30数年、黒豆だけでなく、人数分のおせちを、横浜から出かける京子さんと母の洋子さんがもっぱら作ってきました。
 4年前に亡くなった父の弘雄さんは、お彼岸にはお萩がないと機嫌が悪くなりました。甘党ゆえですが、「季節季節のきまりごとを守りたいほうの人」でもあったのです。京子さんも雛祭りにはちらし寿司、お彼岸にはお萩作りと、きまったときにきまったことをするのが好き、と言います。
 コロナ禍の去年に続き今年のお正月も、一族の新年会は中止になりました。「飽き飽きしバタバタしながら同じことを繰り返す。ということの大事さをいま、あらためて感じています。人もモノもしきたりも、そんなふうにして昔から繋がってきたのですね」
 京子さんはバッグのデザイナーとして知られますが、実は料理もプロの腕前。「デザインと料理は同じ。素材の良さを生かしつつも、小さな驚きがあったら」と工夫するそうです。
 この言葉、四季折々の暮らしのリズム・句読点の大切さに通じる、と思いました。