第9回 大賞作品

黄色い旗 鈴木 ゆう子 (宮城県 36歳)

家族を支えた祈りの光景

選定委員:大平おおだいら 一枝(ライター)

 卒園して一年経つ子のために、保育士らが作った応援旗。思いがけず、添付された写真を見て私は落涙した。青空にはためく真っ黄色の旗に『笑』『繋』の文字。笑っていようね、みんな繋がってるよという祈りが一字に凝縮されている。
 鈴木ゆう子さんは、6歳の長男の骨髄移植手術のため付き添っていた病室で、メールを見た。夫が、娘の送迎時に同園で撮ったのだ。保育士は、「手術の日、私たちは何もしてあげられなくてごめんね」と言った。その晩夫から電話で、「黄色には大切な人を待っているっていう意味があるんだよ」と聞き、さらに胸が震えた。「3歳の頃太鼓がうまく叩けず悩んでいたら、先生が“みんなと同じでなくてもいいんだよ。個性を大切にね”と言われハッとしたんです。園には助けられっぱなしなんです」
 2カ月後の昨年12月。初めて彼女は園庭で旗を見た。「まだ飾ってくださってて。言葉にならないくらい嬉しかった」
 看護交代のたびに受けるPCR検査、無菌室で緊張の日々。脱毛のショックや痛みに加え寂しさに耐える我が子の姿に、実は彼女自身も参りかけていた。そんなとき少しでも気を紛らわせたくて本作を書いたそうだ。何もしてあげられないと侘びた先生方の想いは、彼女の大切なわたし遺産になっていた。
 旗は、無事退院の報を受け、園でお焚き上げに出されたそう。
 賞金について尋ねると「保育園の先生方にお礼を贈ります!」。自分や家族以外の人のためにまず使うという受賞者に初めて会った。