第9回 大賞作品

家族の一員 木佐貫 潤子 (東京都 71歳)

馬たちの時代

選定委員:穂村 弘(歌人)

 木佐貫さんの故郷は北海道の余市郡仁木町、昔の名前を馬群別まぐんべつと云ったらしい。お祖父さんの代に徳島から渡って来られたとのこと。「十八歳で札幌に就職するまで、祖父母と両親と五人兄弟の九人家族でした。山羊の乳を飲んで、羊の毛を刈って、鶏の卵を食べて、豚もいましたね」。
 その中でもやはり馬は特別な生き物だった。「父が一頭買ってきたら、偶然その馬が身ごもっていて、とても喜んでいたのを覚えています」。
 大賞受賞作品「家族の一員」には、そんな馬との関わりを通して、当時の暮しが生き生きと描き出されている。お客さんを駅まで送迎するために、雪道を馬橇ばそりでゆくところなど映画のワンシーンのようだ。
 「私が実家を出た後で、馬が亡くなったことを知りました。祖父の代からずっと馬たちと一緒だったけど、その馬が亡くなったあとは、もうトラクターになりました」。一つの時代の終わりである。
 その後、木佐貫さんは農業研修のためにアメリカのオレゴン州へ。「あちらでは乗馬のために馬を飼っていて、そんな世界があるんだ、とびっくりしました」と笑顔だった。
 「家族の一員」は「開拓時代から人間を支えてくれたお馬さん、ありがとう!」という言葉で結ばれている。家族の一員だった馬だけではなく、人間とともに生きたすべての馬たちへの「ありがとう!」に胸を打たれた。