第1回 わたし大賞作品

78歳のヒーロー賞

宮本 みづえ(大阪府 74)

賞状・エピソード

幸せを手にして味わう

選評 藤川 幸之助(詩人)

 隠し事のせいで、幸せを手にしてもその喜びを味わうことができなかった。「池に行ったことも、溺れたことも絶対に言えない家だったんです」と、宮本さん。厳しい祖母と父だったようだ。もちろん岩島さんに命を助けられたことも隠し事になった。
 「命を助けてもらった人にお礼も言わないで結婚して、子供2人の親になって。あの時死んでいたらこの幸せはなかったんだ。」と、宮本さんは自分が幸せを感じれば感じるだけ自分を責め続けた。
 岩島さんに謝りに行ったのは宮本さんが30歳になる少し前。でも、緊張で思うように謝ることができず、帰ってから岩島さんに手紙を書いた。岩島さんから「全然気にしていないから」と返事がきたが、年賀状に「ごめんなさい。」と書いて毎年送った。

 去年、「死ぬ前に一度会っておきたいから」と、岩島さんから連絡が入り、40数年ぶりに会いに行った。今度は言葉を尽くしてしっかり謝ることができた。別れ際、「もうこのことは忘れて、もっと前を見て生きてください」と岩島さんが言った。
 取材の後に「岩島さんに助けてもらった命やから、これから自分の好きなように生きていきます。」と、宮本さんが笑顔で言った。60数年間の自戒から解き放たれ、今ここに命があることの喜びを実感されているようにも見えた。賞金の使い道を聞くと「好きなマスカットをたくさん買って食べます。」と、宮本さん。幸せの甘い味を心置きなく味わっていただきたい。