第1回 わたし大賞作品
介護生活を支えた
傷だらけの床に感謝賞
丹羽 育子(和歌山県 59)
残された絆
選評 穂村 弘(歌人)
お会いして、まず尋ねてみたかったことがあった。
「『わたし大賞』の多くの応募作の中でも、丹羽さんの作品は印象的でした。特に傷だらけの床に感謝というところ。ご両親の介護に当たっては介護用のベッドや車いすも貢献したと思うのですが、どうして床だったんですか」
少しだけ考えてから、丹羽さんはこんな風に教えてくれた。
「介護が終わった時、レンタルしていた介護用のベッドや車いすは返却してしまいました。両親と一緒にいなくなったようで、ちょっとさみしかったですね。あとにはそれらを10年間支えてくれていた、この傷だらけの床が残ったんです」
なるほどなあ、と思った。私たちは今、その床の上で話しているのだ。車いすの方向転換などでつけられた傷の一つ一つには、ご両親との時間が刻まれている。さらにお話を伺ったところ、丹羽さんはケアマネジャーや介護士の資格をお持ちということがわかった。
「では、介護のプロなんですね」
「ええ、でも、自分の家族の介護となるとまた違うんです」
「どうしてですか」
「家族にはその家族だけの歴史があるから。必ずしもマニュアル通りではない正解の姿があるみたいです」
丹羽さんの作品はエピソードの内容はもちろん、文章もたいへん魅力的だった。例えば、「フローリングに残った多くの傷が、私と両親との介護で結んでくれた絆が、床に残っている」という一節では、「キズ」と「キズナ」が韻を踏むように響き合っている。