第1回 わたし大賞作品

内気な私を変えてくれた賞

川上 真央(東京都 16)

賞状・エピソード

これなら伝えられる

選評 大平 一枝(エッセイスト)

 大学附属の中学に進んだ初日。川上真央さんの席は教卓の前だった。学級新聞について教師に話しかけられると、隣席の子が「ずれたらだめでしょう」。
 冗談交じりに返した。あ、言われちゃった。内気な彼女はうつむく。
「川上さんは、いいと思う?」「全然……大丈夫だと思います」「そう言ってくれるなら大丈夫だね!」
 5年経た今ならわかる。先生は、不安げな自分に、わざと聞いてくれたんだ。
 彼女が私に見せてくれた学級新聞の枠は、注視しないとわからない程度のズレだった。折り目ひとつないそれは、ファイルに入れ、机の前に置いているという。
 話しやすく、必ず最後まで生徒の話を聞く。先生の前だと飾らない自分を出せた。そんな大人は、家族以外で初めてだった。

 穏やかな男性教師は当時30代。しかし中1の3月、コロナで休校後、4月に別の学年に異動。さらにその2年後には、大学で教育学を教えることに。
「ありがとうも言えないままだったのでショックでした」
 中学の卒業式前日、思いきってお礼の手紙を渡した。翌日、教師から便箋3枚の返事が。「じつは私も人見知りで」と書かれていた。
 彼女は、応募の動機をこう語る。
「わたし大賞はウェブで応募すると、自分で賞状の形にできるんですよね。これなら口下手な私でも伝えられる。いつかお渡ししよう、と書きました」
 大賞の受賞以上に、彼女にとってありがとうのバトンを渡す日が、きっと大事な青春の句読点になる。