第2回わたし大賞作品

みごと「わたし大賞」に輝いた作品をご紹介します。

せいろの中華ちまきしか
勝たんで賞

齋藤 直美(東京都 53)

賞状・エピソード

面倒なせいろに宿るもの

選評 大平 一枝(エッセイスト)

 21時近く、仕事から疲れて帰宅した直美さんに、次女が言った。
「ごはんあるよ」
 驚きながらテーブルに座ると、キッチンからせいろが運ばれてきた。母から譲り受けて以来、一度しか使っていないあの年季の入ったせいろだ。立ち上る湯気。竹の皮に包まれた熱々の中華ちまき。
「わ、どうしたの。ありがとう!」
 次女はいつもの少々ぶっきらぼうな口調で「おばあちゃまに習ってたの」。それを聞いて直美さんは胸がいっぱいになったという。
「何日か前に職場でミスしまして。検診に引っかかり、母の体調も悪く、いろいろ重なってずっと落ち込んでいたのを娘は察していたんでしょうね。それにしても、よくせいろの使い方がわかったなと」
 共働きなので、子どもたちは幼い頃、下校後に祖母宅に直行。その時ちまきの作り方を教わり、竹皮を分けてもらったらしい。

「私は子どもの頃、母にそんなにちまき食べられないよーとよく言いました。でも食べると、やっぱりおいしい。湯気のほわほわを見てると、悩みのあれこれも消えてゆくのでした」
 直美さんは今、再びせいろに癒やされている。レンジで温めるおいしい冷凍ちまきがいくらでもある時代に育った19歳の娘によって。「娘との物語を、と書き始めて気づいたんです。ああこれは、母への感謝状だわって」
 餅米を水につけるところから、ちまきは手間がかかる。昔ながらのせいろを介して愛情をつなぐ3世代に、大賞という感謝状を。