第2回わたし大賞作品
みごと「わたし大賞」に輝いた作品をご紹介します。
人生を変えた質問賞
安部 瞳(大阪府 48)

一生を懸けた答
選評 穂村 弘(歌人)
「人生を変えた質問」というタイトルを見た時、その内容を想像した。でも、そこに描かれていた出来事はまったく予想外で、だからこそ魅力的だった。
「どうして初対面の留学生から、『大丈夫』の意味を聞かれることになったんですか」
「たまたま一緒にエレベーターに乗っていて、降りる時に彼が先を譲ってくれそうになったので、
「ああ、だから、そのタイミングで聞かれたんですね」
「はい。彼はバイト先のコンビニでも、お客さんによく『大丈夫です』と云われるみたいで」
「あ、云いますね。『温めますか』とか『お箸はおつけしますか』とか聞かれた時に」
「ええ。その場合はノーの意味だけど、日本語の『大丈夫』にはイエスの時もあるから混乱しますよね。その場でできるだけ説明したけど、自分ではわかっていても、外国の人にうまく伝えるのは難しくて……」
そうだろうなあ。でも、安部さんの凄いところは、翌日、書店の日本語教育のコーナーに行ったところ。さらには、日本語教師の養成講座に申し込んで、とうとう転職までしてしまったところだ。その行動力に驚く。
「その後、彼に会う機会は?」
「残念ながら一度もなくて。感謝を伝えたいんですけど」
一度きりの出会いが、ただ一つの質問が、本当に人生を変えてしまった。でも、同じ経験をしても、日常の一コマとしてスルーしてしまう人がほとんどだろう。それを「人生を変えた質問」にしたのは、一生を懸けて答えようとした安部さん御自身だと思う。