第3回わたし大賞作品
みごと「わたし大賞」に輝いた3作品をご紹介します。
ゴミの分別大賞
大村 純子(東京都 59)

書きながら気づく本当の声
選評 大平 一枝(エッセイスト)
南向きの日当たりの良い緩和ケア病棟の一室。父の部屋に五日間泊まり込んでいた純子さんは、カーテンを開けながら思わず声をあげた。「朝が来たよ!」
いつ別れが来てもおかしくないと言われていたなか、今日も無事に朝を迎えられたことが嬉しかった。
すると、自らの意志で治療はしないと決め、最期まで脳と言葉がしっかりしていた父が、上記の遺言を語ったという。
「えーっ、なにそれって思いました」
六年前の朝を、穏やかな笑みで振り返る。
「わたし大賞」は、たまたま新聞広告を見かけ、「不意にあの日のことが湧いてきて、わーっと深夜に書き綴ったのです」。過去の受賞作も一度も読んでいないとのこと。
ところが文字数が大幅にオーバーしている。削りに削り、本当に言いたい言葉だけを残したとき、気づいた。──あ、私は大好きな父の「ありがとさん」が聞きたかったんだな。
現在九十三歳の母は、見守りに通う純子さんがゴミを自宅に持ち帰ろうとすると気の毒がり、「いいわよ」と止めることもある。「でもこれ遺言なのよ」と母には答える。
冗談好きで、亡くなる直前も酸素マスクをちょんまげにして家族を笑わせた父。
子どもの頃から叱られたことが一度もない。
明るくて優しくて、去ってからもこんなギフトを娘に贈るとは、なんて粋な人だろうか。