第3回わたし大賞作品
みごと「わたし大賞」に輝いた3作品をご紹介します。
あなたの変顔に救われたで賞
小田原 迦凛(宮崎県 18)

変顔の奥にある、母のまなざし
選評 藤川 幸之助(詩人)
それは、小学校の入学式の時のこと。一人ひとり名前を呼ばれ、大きな声で返事をしなければならない。怖くて、迦凛さんは泣きそうになった。 助けを求めて保護者席を振り返ると、そこには母の全力の変顔があった。迦凛さんは思わず笑ってしまい、すっと緊張がほぐれ、小声だったけれど返事ができた。これが、迦凛さんと変顔の物語の始まりだった。
迦凛さんは外では話さない子だった。「笑われたら、変に思われたら」という恐怖から心を守るため、沈黙は唯一の避難場所だったのだろう。「涙を浮かべて毎日帰ってくるんです。一生懸命頑張ったんだなあと、私も泣きそうになるけど、我慢して変顔をしていた。」とお母さん。その変顔を見るために今日も一日頑張ろうと、迦凛さんは登校した。
「原型が分からない程の変顔」に、母が重ねた愛の深さを知る。そのお陰か、今の迦凛さんに幼い頃の憂いはどこにもない。堂々と語る眩しい18歳だ。変顔の奥にあるもの、それは母の「まなざし」だ。まなざしとは、思いを宿した視線のこと。言葉になる前の言葉ではないもの。伝え合いたいのは言葉ではない。おどけた顔の奥から注がれ続けた、その温かな言葉を超えたまなざしこそが、今の彼女を作ったのだ。
来春、自衛官として巣立つ。「人のために尽くしたい」と語る彼女には、もう一つの夢がある。「災害復旧の現場で私と同じような子がいたら、受け止めて変顔で笑わせたい」。かつて母に救われた少女は今、誰かの悲しみを笑顔に変えるため、力強く歩み出そうとしている。