池上彰さんの著書『知識ゼロからの池上彰の世界経済地図入門』より、ニュースを読むときに役立つ内容を厳選して、メールマガジン会員の皆様へ特別にお届けします。

連載第2回は、世界の資源争奪と環境問題についてご紹介します。

7月から開催されている東京オリンピック・パラリンピック競技大会に合わせて、3つの祝日が変更されていることをご存知でしたか?「2021年限定」の特例で、「海の日」はオリンピック開会式前日の7月22日、「スポーツの日」は開会式当日の7月23日、「山の日」は閉会式当日の8月8日に移動しています。

さて、7月の「海の日」は海の恵みに感謝する日。四方を海に囲まれ、多くの恩恵を受けながら発展してきた日本ならではの祝日です。この機会に、海の豊富な資源や環境問題について考えてみてはいかがでしょう。

【第2回】 世界の資源争奪と環境問題について

世界で広がる水資源の不足

「水」 をめぐって国際紛争が起こる! と言われても、水資源に恵まれた日本で暮らす私たちにはピンと来ないかもしれません。でも世界では、急激な人口増加や経済発展、地球温暖化による環境破壊などが原因で、激しい水の争奪戦が始まっているのです。

アジア、 アフリカを中心に、安全に管理された飲料水を利用できない人は、なんと約22億人(2017年現在)。さらに、農業や、工業用の水も不足しています。そこで、国境を越えて水資源を確保し、上水道供給から下水道処理までを引き受ける「水メジャー」という巨大企業が台頭しています。「ウォーター・バロン(水男爵)」とも呼ばれ、フランスのヴェオリア社が有名です。

水も限りある資源。世界各地で深刻な水不足が進む中、水源の権益をめぐって対立する国や地域もあります。今後、水をめぐる紛争の増加が心配されています。

水をめぐる新しい概念「バーチャルウォーター」

水の用途は主に、工業用水、農業用水、生活用水に分類できます。私たちがふだん目にするのは生活用水ですが、実は工業用・農業用に大量の水が使われています。

例えば、牛を飼育するためには、飼料となる穀物を栽培する水に加え、さらに牛の飼育そのものにも水が必要です。食料や畜産物を輸入している消費国が、もしそれらを生産すると仮定したら、どれくらいの水が必要になるでしょうか。こうした考え方を「バーチャルウォーター(仮想水)」と言います。日本は、飲料用の水は自国で十分まかなえますが、食料の輸入に伴い、バーチャルウォーターとしての水の輸入も多いことを知っておいてくださいね。

北極海の資源争奪戦が始まった

さて、水資源だけでなく、海の資源をめぐる争いも世界各地で起こっています。

近年注目されているのが北極海。厚い氷と永久凍土に閉ざされた過酷な環境で先住民イヌイットが暮らす、そんな光景がイメージできますが、地球温暖化の影響で北極海の氷が徐々に解けてきているのです。これにより、開発が困難だった北極圏の豊富な地下資源をめぐる争いに火がつきました。

北極圏には金、銀、ダイヤモンドなどの鉱物資源をはじめ、地球上のまだ発見されていない資源の4分の1の石油・天然ガスが眠っているとされています。

そこで問題になるのが領有権です。北極海のほぼ中心を走る「ロモノソフ海嶺」がロシア側の大陸棚と地続きなのか、北米大陸とつながっているのか。それによって開発の権利がどこにあるかが決まります。2008年には、北極海を領海として取り囲む5カ国が「北極海会議」を開催しました。それぞれの国の権利が及ぶ範囲をめぐって調整が続いています。

排出権取引ビジネスがさかんになってきた

北極は地球の他の地域に比べて、温暖化が2倍のスピードで進行しているとされ、北極温暖化による気候変動の影響が深刻になっています。6月に開催されたG7サミットでも、国際社会の重要な課題として気候変動の対策について話し合われました。

地球温暖化は、人間の活動によって増加した二酸化炭素(CO₂)などの温室効果ガスが主な原因です。温暖化防止のために2005年に発効した国際条約「京都議定書」では、各国別に温室効果ガスの削減率が定められました。

そこで生まれたのが「排出権取引」です。「排出権取引」とは、国や企業が温室効果ガスの削減目標を達成するため、排出枠を売買する新しいしくみです。CO₂排出量が世界1位の中国も、排出権取引を本格的に開始しました。これに目をつけたヘッジファンドが排出権に投資する動きも活発化しています。CO₂がお金に変わる、まさに現代の錬金術かもしれませんね。

新たなエネルギー源を模索

日本は、「温室効果ガスの排出量を1990年比で25%削減する」と表明していましたが、福島原子力発電所の事故を受けて、「2005年比で3.8%削減」という新たな目標を決めました。

原発の代替エネルギーにはCO₂増加の問題もあります。かといって、太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけで必要量を確保するのは難しいのが現状です。次世代のエネルギー源を模索する動きが続いています。

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『知識ゼロからの池上彰の世界経済地図入門』
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執筆者紹介池上 彰いけがみ あきら

1950年8月9日長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。

元NHK記者主幹。現在はフリージャーナリスト。名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授、立教大学客員教授、信州大学特任教授、愛知学院大学特任教授、関西学院大学特任教授、順天堂大学特任教授。

1973年NHK入局。報道局記者を歴任し1994年から「NHK週刊こどもニュース」の初代お父さん役を11年間続けた後、2005年にNHKを退職。在職中から執筆活動を始め、現在は出版、講演会、放送など各メディアにおいてフリーランスの立場で活動する。鋭い取材力に基づいたわかりやすい解説に定評がある。

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