池上彰さんの著書『知識ゼロからの池上彰の世界経済地図入門』より、ニュースを読むときに役立つ内容を厳選して、メールマガジン会員の皆様へ特別にお届けします。

連載第4回は、中国の発展とキャッシュレスについてご紹介します。

行政のデジタル化を推進する司令塔組織「デジタル庁」が9月より始動しましたね。コロナ禍では他の先進国に比べて、行政手続きの遅れが深刻だったことから、デジタル社会の実現が菅政権の重要政策のひとつでした。国や自治体のシステムの統一、マイナンバーカードの普及促進など迅速な改革が求められています。

一方で、リモートワークやオンライン授業など、社会のデジタル化は急速に進展しました。キャッシュレス決済もその一つ。しかし、日本における実際のキャッシュレス決済比率は30%程度で、世界的に見るとまだまだ普及が遅れているのが現状です。政府は2025年の大阪万博までに、この比率を40%に引き上げることを目標としています。

それに対して、キャッシュレス先進国と言われているのがお隣の韓国や中国です。今回は、目覚ましい経済成長を遂げた中国に注目し、中国の発展とキャッシュレス事情をテーマにお話しします。

【第4回】 中国の発展とキャッシュレスについて

中国のキャッシュレス事情

キャッシュレス決済には、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、スマートフォン(QRコード)など様々な手段があります。中国ではモバイル端末でのQRコード決済が主流となっています。代表的なサービスがアリババの「Alipay(アリペイ)」とテンセントの「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」。いまやお年玉やお祝い金もモバイル決済でやりとりするそうです。

一方で、日本とは違い、クレジットカードはあまり利用されていません。日本国内の百貨店や家電量販店で「銀聯(ぎんれん)/UnionPay」と書かれたマークを見かけることはありませんか?実は、これは中国で発行されているカードのマークです。銀聯カードのほとんどがデビットカードで、決済と同時に銀行口座から引き落とされる仕組みです。個人向けの与信システムがない中国ではクレジットカードが普及せず、銀聯カードが多く使われています。

中国の通貨・人民元のレートは政府が決める

アメリカに次ぐ経済大国になった中国。世界金融危機を機に基軸通貨であるドルの信用は下がっていますが、反対に人民元の価値は上がっているのでしょうか。

中国の人民元は、市場ではなく中央銀行にあたる中国人民銀行がレートを決めています。これを管理変動相場制といい、政府が介入して変動幅を一定の範囲内に抑えて人民元のレートを安定させるシステムです。

そのため、実際の経済力に対して人民元の価値が低く管理されているという批判も。輸出で儲けるには人民元が安いほうが得だからです。これにより、中国の貿易黒字が拡大しました。

しかし、世界経済における中国の存在感が大きくなるにつれ、この人民元問題を中心に国際的な摩擦も高まってきました。特に、米中間の貿易摩擦の激化が問題となっています。

都市部と農村部の所得格差がさらに広がる

中国の経済政策である改革開放は、「先に豊かになれるところが豊かになり、その他の地域は後から助けよう」という考えで実行されました。結果、沿岸部では外資による開発などで「世界の工場」と呼ばれる経済成長を実現。その反面、内陸の農村部は21世紀に入っても発展から取り残され、所得格差が拡大しています。

そこで習近平国家主席は、最近になって「共同富裕」という言葉を使っています。「みんなで豊かになろう」つまり格差を縮めようとしているのです。大金持ちが叩かれたり、人気女優の金銭スキャンダルが表面化したりしているのは、この流れの一環だと見られています。

所得分配の不平等さを測るジニ係数を見てみると、中国は改革当初の0.28から大きく上昇し、2016年時点でも0.465と高い水準にあります。ジニ係数の値は0〜1の間で、数値が0に近いほど平等であり、1に近いほど所得格差が大きいことを示しています。

ちなみに、日本のジニ係数は0.334(2018年データ)。先進国の中では所得格差があるほうです。特に、若年層の非正規雇用の増加などで世代間の所得格差は増大しています。貧しい若者が増えているということです。

都市部と農村部では戸籍も違う

中国では、内陸の農村部に暮らす人と、沿海の都市部に暮らす人では、それぞれ異なった戸籍を持っています。これは1958年に制定された制度で、農村部の戸籍を持つ人は、都市部に居住することができません。

ただ、当時と比べて国が格段に裕福になり、都市部で多くの労働力を必要とする現在、この規制は緩和されつつあります。しかし、なかなか廃止を実行に移せないのが現状です。もしも本格的に制度が撤廃されれば、都市部の人口爆発と農村部の急激な過疎化が起こると懸念されているからです。

次期新興国には、多くのアジア諸国が含まれる

さて、アジアで日本が唯一の先進国だった時代は終わりました。日本は「失われた20年」の間に、中国をはじめとする発展するアジア新興国から取り残されてしまったのです。

米投資銀行ゴールドマン・サックスによって、BRICsに次いで経済大国への成長の可能性があるとされるのが「NEXT11(ネクストイレブン)」(ベトナム、フィリピン、インドネシア、韓国、パキスタン、バングラデシュ、イラン、ナイジェリア、エジプト、トルコ、メキシコ)の国々。BRICsとは違い、国土の大きさや資源量、経済発展の度合いなどはバラバラですが、若者人口の層が厚く労働力が確保できる点で期待されています。

日本が今後も持続的な成長を実現するためには、こうしたアジア新興国との連携を強めていくことが重要となっています。

こちらでもお読みいただけます。
『知識ゼロからの池上彰の世界経済地図入門』
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執筆者紹介池上 彰いけがみ あきら

1950年8月9日長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。

元NHK記者主幹。現在はフリージャーナリスト。名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授、立教大学客員教授、信州大学特任教授、愛知学院大学特任教授、関西学院大学特任教授、順天堂大学特任教授。

1973年NHK入局。報道局記者を歴任し1994年から「NHK週刊こどもニュース」の初代お父さん役を11年間続けた後、2005年にNHKを退職。在職中から執筆活動を始め、現在は出版、講演会、放送など各メディアにおいてフリーランスの立場で活動する。鋭い取材力に基づいたわかりやすい解説に定評がある。

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