池上彰さんの著書『池上彰のはじめてのお金の教科書』より、ニュースを読むときに役立つ幅広い情報をセレクトして、メールマガジン会員の皆様へ特別にお届けしています。
連載第7回は、紙幣の「顔」についてご紹介します。
2024年度上期をめどに、一万円札、五千円札、千円札の各紙幣が20年ぶりに刷新されます。新紙幣の顔となるのは、一体どのような人物なのでしょうか。
まず新一万円札に選ばれたのは、NHK大河ドラマ「青天を衝け」で主人公として描かれている渋沢栄一ですね。渋沢栄一は、第一国立銀行(現 みずほ銀行)や東京株式取引所(現 東京証券取引所)など、約500もの企業の設立等に関わり、日本の資本主義の父とされています。新五千円札は、津田塾大学の創立者である津田梅子。近代的な女子高等教育に尽力した女性です。新千円札の北里柴三郎は、破傷風菌の純粋培養など科学技術の発展に貢献し、ペスト菌を発見したことでも知られています。
紙幣のデザインを変える一番大きな目的は、偽造を防ぐこと。ですから、人物の選定基準としては、なるべく精密な写真・肖像画を手に入れられることなどが挙げられます。では偽造防止のために、紙幣にはどんな工夫がされているのでしょうか。
紙幣の顔はどう決まる?
政治家はお札になれない
今、皆さんが使っているお札のことを、もう少し学んでみましょう。ご存知の通り、お札には人の顔が描かれています。千円札は、野口英世。五千円札は、樋口一葉。一万円札は、福沢諭吉です。三人とも、国のために役立つ様々なことをして、 歴史に名を残した人です。 それ以外にも共通点があります。たとえば、全員「文化人」であるということですね。
福沢諭吉は慶應義塾大学を創設した教育者、野口英世は細菌学者、樋口一葉は作家です。昔は、板垣退助や伊藤博文など政治家が選ばれることが多くありました。けれども、政治家はどんなに立派でも、後になってから批判される可能性があります。そこで、あるとき、そういう危険のある人はお札に描かない、ということが決まったのです。
ヒゲやシワがある人のほうがいい
男性が選ばれることが多いのも、理由があります。それはお札を偽造されないようにするため。顔に細かいヒゲやシワがあると、偽造するのが難しい、ということです。五千円札に描かれている樋口一葉は、女性ですし、ヒゲがなくシワもない、きれいな顔をしていますよね。だからお札をつくるときには大変苦労した、という話があるのですが、最近はお札の製造技術が発達しているので、女性も選ばれるようになっています。
お札に最も多く登場したのは誰?
日本のお札に描かれた肖像として、これまでに一番多く登場したのは、「聖徳太子」です。1930年に発行された 「乙百円券(おつひゃくえんけん)」に初めて登場して以来、その回数は合計で7回にもなります。
聖徳太子は、およそ1500年前の日本で活躍した政治家です。「十七条の憲法」によって国のかたちを定めたことや、中国の文化を取り入れたことで知られています。こうした多くの業績を残し、日本人に親しまれ、尊敬されていることが、聖徳太子が選ばれる理由です。ただし、最近の研究では厩戸皇子(うまやどのおうじ)と呼んだほうがいいという説が有力です。 ちなみに、聖徳太子の次に多く登場したのは、菅原道真と和気清麻呂です。それぞれ6回登場しています。
ニセ札を防ぐための工夫がある
さて、ただの紙きれとお札の違いは、「これはお金だ」という信用があるかどうかです。ですから、ニセモノのお札があると、その信用が無くなってしまいます。日本のお札の印刷技術は、偽造防止のために発展し、今、私たちが使っているお札には様々な工夫がされています。
たとえば、お札の中心にある、何も描かれていない白い部分に光を当てると、表の面と同じ人の顔が浮かび上がってきますね。これは「すかし」といい、お札の製造にしか使ってはいけない特別な技術が使われています。さらに細かく観察すると、人の顔の「すかし」と同様に、棒のようなものがどこかにすけて見えるはず。一万円札は3本、五千円札は2本、千円札なら1本の縦棒です。ぜひ、試してみてください。
さらに深掘り
―なるほどティップス―
本物のお札をコピーすると・・・・・・
他にも、お札を斜めに傾けたときだけ見える文字や色があります。これも特別なインクを使っているからです。また、とても小さく描かれた「NIPPONGINKO」 という文字は、「マイクロ文字」といい、コピー機ではうまく印刷できないようになっています。
ではもし、お札をコピー機でコピーしたら、どうなるでしょうか? 正解は「真っ黒になる」。これもお札の偽造を防ぐための技術です。ですが、そもそもお札をコピーするのは法律で禁止されているので、やってはいけませんよ。
次回は、【第8回】 お金を稼ぐ!一番大切なことは何?
についてお届けします。
どうぞお楽しみに。
続きはこちらでお読みいただけます。
『池上彰のはじめてのお金の教科書』
※幻冬舎のWEBページに移動します。
執筆者紹介池上 彰いけがみ あきら
1950年8月9日長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。
元NHK記者主幹。現在はフリージャーナリスト。名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授、立教大学客員教授、信州大学特任教授、愛知学院大学特任教授、関西学院大学特任教授、順天堂大学特任教授。
1973年NHK入局。報道局記者を歴任し1994年から「NHK週刊こどもニュース」の初代お父さん役を11年間続けた後、2005年にNHKを退職。在職中から執筆活動を始め、現在は出版、講演会、放送など各メディアにおいてフリーランスの立場で活動する。鋭い取材力に基づいたわかりやすい解説に定評がある。
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