昨年の漢字は「金」

年末の風物詩として、その年の世相を一字であらわす『今年の漢字』の発表がありますが、昨年(2021年)の漢字は「金」でした(日本漢字能力検定協会公表)。東京オリンピックでの「金」メダルラッシュが記憶にあたらしいですが、家計面でも新型コロナウィルス関連の給付「金」などがあり、大いに「金」が注目された年だったと思います。

そこで、日本の「金」の動きである「資産運用」について振り返ってみたいと思います。 最近、若い世代を中心に利用が拡大している「資産運用」の器としては、「つみたてNISA」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」が代表的な制度です。つみたてNISAは、少額からの長期・積立・分散投資を支援する目的で2018年にスタートした非課税制度です。毎年40万円までを非課税投資枠の上限として、一定の条件を満たす投資信託へ投資ができます。もう一つのiDeCo(個人型確定拠出年金)ですが、2017年に制度が改定・拡充されて、公務員や主婦の方も加入できることになったことで注目を集め、加入者数が急拡大してきています。その名の通り、「個人」が「掛金を自分で出して(拠出)」、自分で運用する「私的年金制度」です。

日本において資産形成が注目されるようになったきっかけの1つに、2019年の「老後資金2000万円問題」があると思いますが、2019年からの2年間で両制度の利用がどのくらい広がったのかを確認してみましょう(図表1、図表2)。

【図表1】

図表1 つみたてNISA 利用状況

【図表2】

図表2 個人型確定拠出年金(iDeCo)利用状況

(出所)「数字で見る投資信託」(一般社団法人 投資信託協会)より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成。

つみたてNISAの口座数は、2019年から2020年で約100万口座、2020年から2021年では約170万口座の増加となっており、総数で400万口座を超えてきています。買付総額でみると、2019年の1,780億円が、2020年には4,577億円に、2021年6月には1兆円を超えてきています。

個人型確定拠出年金(iDeCo)も加入者数が急増しており、2019年の141万人から、2021年には221万人と2年間で1.6倍になっています。

両制度の伸長を世代別にみてみると、資産形成世代にあたる20歳代~50歳代の伸びが大きく、とりわけ、つみたてNISAの口座開設での動きが顕著となっていることが特徴です。

さて、今年の漢字は?

このように、資産形成を促す税制優遇制度の利用が活発化してきていますが、その背景としては、「老後資金2000万円問題」など、耳目を集める「イベント」の効果があげられます。しかし、それだけではないように思います。

新型コロナ感染拡大防止の核が「接触を避ける」ことであったため、テレワークの拡大・定着化を筆頭に、学校の授業から、企業の営業活動や採用活動、会議やセミナー、イベント、果ては飲み会まで、様々な分野においてオンライン化が急速に進行しました。資産形成や金融行動に直接関係するところでも、オンラインでのライフプランセミナーや資産運用相談、手続きの充実・一般化が急速に進みました。

資産形成の活発化に「オンライン化の効果」が関与していることは明らかと思われます。ただ、1996年に「貯蓄から投資へ」が掲げられて以降、投資優遇制度の創設、投資商品の小口化、手数料の低廉な投資商品の増加など、投資や資産形成を推し進めるための制度や環境が少しずつ整えられてきたことも見逃すことはできません。

制度面では、2001年に確定拠出年金(DC)、2014年にNISA(少額投資非課税制度)、2018年からは、つみたてNISAがスタート、2017年は個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入対象拡大など、制度の拡充が進んできました。

投資商品の小口化も進みました。とりわけ、投資信託の最低購入額も、足下ではインターネットバンキングや総合証券が1,000円、ネット証券が100円単位と、気軽に利用できる水準になってきています。

投資に関する手数料面でも、ネット証券を軸に低廉化が進行し、手数料ゼロの投信(いわゆるノーロード投信)の数も増加しており、つみたてNISAの投資対象商品の要件のひとつが「ノーロード」となっていることなどからも、この傾向は続くと思われます。

こうした、資産形成への一歩を踏み出しやすくする「下地」に、「老後資金2000万円問題」などのイベントと、新型コロナショックによる「オンライン化の進展」などが重なったことによって、資産形成世代のマインドが「いつか始めよう・始めなければ」から「今、始められる」に変わったのではないかと思われます。

テレワークの定着で仕事帰りの1杯が減っていることは大変残念ですが、「外食が減ればその分のお金が浮く→資産形成の原資が捻出しやすくなる」ということを実体験として学んだ人も少なくないと思います。2022年は、こうした経験則も活かしながら、家計を「資産形成体質」に変えるチャンスの年ともいえそうです。そうなれば、「今年の漢字」は、「資産形成」の『資』になるかも知れませんね。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者丸岡 知夫まるおか ともお

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 所長
1990年に三井住友信託銀行に入社。確定拠出年金業務部にてDC投資教育、継続教育のコンテンツ作成、セミナー運営に従事。2019年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)がある。

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