相続する資産額の平均は2,346万円

米国では11月の第4木曜日は感謝祭(サンクスギビングディ)として、親族や友人と夕食を囲みます。その昔、英国から大西洋を渡り、マサチューセッツ州のプリマス植民地に移住したピルグリム・ファーザーズの最初の収穫を記念するお祝いといわれています。夕食は七面鳥の丸焼きをメインディッシュとする伝統があることから、「ターキーディ」とも呼ばれているそうです。17世紀ごろの新大陸では作物がなかなか育たず、近隣のインディアンから栽培知識を授けてもらい、そのおかげで1621年の秋は特に多くの収穫を得たことから、インディアンを招き神の恵みに感謝して共にご馳走をいただいたことが起源とされているようです。

やはり、喜びは多くの方と分かち合いたいものですが、世代から世代へ受け継がれていく資産(遺産)も大きなギフトですので、感謝の気持ちとともに受け取りたいものです。

今回、三井住友トラスト・資産のミライ研究所(以下、ミライ研)が実施した1万人アンケート調査(2022年 対象年齢20歳~69歳)において、「相続を受けたことがある」と回答された1766人に対して、相続した資産の規模について尋ねたところ、【図表1】の結果となりました。

【図表1】 相続資産額の規模

(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所 「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)をもとにミライ研が作成

相続資産額の全体平均は2,346万円となりました。世代別の平均値をみてみると、相続資産額1億円以上の比率の多寡によって、平均額にも差が生じているようです。各年代の回答者数が大きくないこともあり、相続資産の高額者比率が年代別の平均額の多寡に影響していると考えられます。

ただ、受け継いだ資産の平均額の大小は関心を集める「数字」ではありますが、その起点が「相続」であることもポイントです。相続時に年齢が若くとも「1人の相続人」として資産を受け継ぎますので、「相続時年齢の老若」に関わらず、相応の相続資産規模になっていると考えられます。

相続資産の形態は現預金と不動産

また、相続した資産の規模と合わせて「形態(金融資産、不動産など資産種別)」についても尋ねています【図表2】。

【図表2】 相続資産の形態(複数回答可)

(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所 「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)をもとにミライ研が作成

相続した資産種別に「現預金」が含まれていた方が約7割、不動産(住居)、不動産(土地)などが含まれていた方がそれぞれ約4割という結果になっています。

年代別の回答分布をみてみると、40歳代以降では現預金が約6割~7割、不動産(住居・土地)が3割~4割となっています。20歳代・30歳代では、現預金は6割~7割で全体平均とほぼ同じ比率ですが、不動産(住居・土地)の比率は全体平均よりも低い比率になっています。

これは、ミライ研のアンケート調査の別の設問で「誰からの相続か」を調査していますが、20歳代・30歳代においては実祖父母・実父母からの比率が双方とも高く、40歳代以降では実父母からの相続の比率が7割以上だったことが確認できていますので、実祖父母からの相続資産種別としては「現預金」のケースが多く、実父母から相続する資産種別には「現預金」とともに「不動産」も受け継ぐケースが多いのではないかと考えています。

受け継いだ資産を「ライフプラン・マネープラン」の中に位置づけてみる

日本の社会構造をみると少若多老(若年層が少なく高齢層が多い)が顕著となってきています。少子化により若年層は兄弟姉妹の数が少なく一人っ子のケースも多いと考えられます。現在の若年層の将来を想像してみると、職務のジョブ化や労働の流動化、副業・兼業化などの進展に伴い、同じ企業や組織に所属し続け、その中で右肩上がりの収入曲線をイメージしていくような単線的なライフステージは少数派になってくるかもしれません。一方で、世代間の資産承継という観点では、「大相続時代」を迎えることになりますので、自分の上の世代からまとまった資産を受け取るケースが増えることも考えられます。

例えば、図表1の「相続資産の平均額」規模で資産を受け継いだと想定しますと、ご自身の「老後資金2000万円問題」に対する不安は和らぐように思いますが、同時に、ご存命の父母世代の「老後資金」についての責任の増大や、不動産(土地・住居など)の相続があれば、その管理やリフォームなどに関する支出についても考えていく必要が生じてくるかも知れません。「相続」は資産だけを受け継ぐのではなく、家族・親族の関りの中で、「役割や責任」も受け継ぐものとも考えられます。

受け取った資産を自身のライフプラン、マネープランの中で、どう位置付け、管理していくのか、また、それを自身の老後資金やライフイベントにどう活用していくのか、に対応していく観点で、相続時における「ライフプランやマネープランの策定(もしくは見直し)」が、今後、一層重要になってくると考えられます。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者丸岡 知夫まるおか ともお

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 所長
1990年に三井住友信託銀行に入社。確定拠出年金業務部にてDC投資教育、継続教育のコンテンツ作成、セミナー運営に従事。2019年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)がある。

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