「2022年の漢字」 1位は「戦」ではありますが。。。

12月12日は「漢字の日」にちなんで、その年の世相を一字で表す『今年の漢字®』が発表されています(※「今年の漢字」は公益財団法人 日本漢字能力検定協会の登録商標です。)。年末に心待ちにされていた方も多いと思われますが、昨年(2022年)の漢字は『戦(セン/いくさ・たたかう)』でした(日本漢字能力検定協会公表)。ウクライナへの侵攻や安倍元首相銃撃事件、円安の進行、物価の高騰など、多くの人に不安を与えた出来事などの影響で、『戦』を選ばれた方が多かったようです。ちなみにトップ5とその得票率をみてみますと、以下となっています。

(日本漢字能力検定協会公表)

もう10年以上前になりますが、「1位じゃないと駄目ですか?」というフレーズが巷に流行しました。確かに、得票率では「戦(セン)」がトップとなりましたが、2位は僅差で「安(アン)」、やや遅れをとりましたが3位の「楽(ラク)」も3%以上の得票率であり、4位以降との差は歴然としています。であれば、「戦」のトップはゆるぎないとしても、今回のコラムでは、敢えて2位・3位の「安・楽」コンビに注目したいと思います。

昨年(2022年)は、「安」「楽」に向けた種蒔きの年だった?

NISAの抜本的な改正が示された昨年(2022年)は、将来、振り返ってみますと、個人の経済的な「安心」と「楽しみ」に向けた種蒔きがなされた年だった、と記録される年になるかも知れません。

昨年末に令和5年度の与党税制改正大綱が公表されましたが、今改正の目玉の1つが個人の投資における優遇制度であるNISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充・恒久化でした。

NISAは、銀行や証券会社などの金融機関でNISA口座を開設して上場株式や株式投資信託などを購入すると、本来課税の対象である配当金や売買益等が非課税となる制度です。

今回、「成長と分配の好循環」を実現するために、若年期から高齢期に至るまで「長期・積立・分散投資」による継続的な資産形成を行えるように、非課税での保有期間が無期限化されます。また、新たに「成長投資枠」が創設され、年間の投資水準は、現NISAの120万円から3倍となる360万円に拡大、生涯にわたる非課税限度額も1800万円に引き上げられますので、「貯蓄から投資へ」の流れを強力に推し進めようという方向が確り示された内容になっています【図表1参照】。

【図表1】

(出所)2022年12月16日公表の「令和5年度与党税制改正大綱」の内容にもとづき資産のミライ研究所が作成

今回の改正内容において、制度の活用面で特に大きなインパクトとなるのが「制度の恒久化」と「投資額の累積管理(簿価管理)」です。非課税限度枠の上限は1800万円で簿価管理となるので、途中引き出して投資簿価が減少し、空き枠ができれば、その分、非課税枠での投資ができる仕組みになっています(ただし、年間の投資枠内での投資となります)。恒久化されたことで、「長期的に」「1800万円の枠内で」「資産を増やし、ひきだし、また増やす」ができる制度となりますので、NISAにおいて「中長期目線での運用」が行いやすくなり個人のライフイベントへの備えを促進する観点で、望ましい改正内容といえましょう。

非課税限度枠は、「家計資産の養成枠・育成枠」のイメージで活用ができそうです。世帯主だけが資産形成する時代ではなく、「家族全員で、家計の資産形成をする時代」の到来ともいえそうです。例えば、世帯主・パートナー・子の3人家族なら非課税限度額は総額で「5400万円」となります。一般的な家計規模からすると十分な枠であるといえます。

NISAの基本を「課税後の所得を元手として、自身で積み立て、運用し、資産形成していくもの」としますと、NISAからの引き出しに関しては、いつ、どんな受け取り方としようと自由です。今回、恒久化されたことで、例えば、「リタイア後にNISAで運用しつつ、必要に応じて分割して受け取りをしていく」活用も考えられます。言い換えますと、NISAを活用した「老後のキャッシュフロー設計」の自由度が広がることになります。

また、50~60歳代以降において、退職金を原資とした老後資金の運用(投資デビューも含む)にも取り組みやすくなると考えられます。年間の非課税枠は、つみたて枠と成長投資枠の併用で、最大年360万円となりましたので、リタイア時に受け取った退職金を、投資期間を複数年に分けてNISAに積み立て、運用する活用方法も想定されます。投資対象としては、投資信託であれば「分配金なしタイプ」と「分配金ありタイプ」を老後生活資金のキャッシュフローに合わせて使い分けることもできそうですし、成長投資枠に高配当の日本株を組み込むことで高齢期の公的年金の補完目的での活用もできそうです。今後、「NISAを活用した老後生活のキャッシュフロー設計」に関する相談が、金融機関やファイナンシャルプランナーへ寄せられる機会も増えてきそうです。

年の初めでもありますので、少し想像を膨らませますと、家族・親族で「我が家の資産形成」に取り組む場合、家族の中で「お金を持っている人」と「NISAの投資枠を持っている人」が別々である場合、「お金を持っている人」から「投資枠を持っている人」への贈与(例えば、暦年贈与での資産移転)などが活性化するのではないかと思います。また、家族内では、学校で金融教育を受けたお孫さんが祖父さん・祖母さんのNISA枠での運用についてアドバイスをする、といった「新しい姿」も考えられるのではないかと思います。

令和最初の卯年こそ『資』の年に

十二支は中国から伝来してきたもので、12の動物は、それぞれ、植物が生い、茂り、枯れていく様を表しているといわれています。「卯(うさぎ)」は十二支の4番目、草木が伸び出て地表を覆っていく状態を表すものと解釈されています。そういった意味で、卯年はものごとの状態が「目に見えて大きくなる年」だといわれていますし、うさぎは跳び跳ねることから「飛躍」の象徴、さらに、うさぎは子をたくさん産むことから「子孫繁栄」が期待される年にもなっています。

昨年1月の本コラムにて、「2022年は家計を資産形成体質に変えるチャンスの年ともいえそうです。そうなれば、今年の漢字は、資産形成の『資』になるかも知れません」とお伝えさせていただきました。昨年の漢字は「戦」でありましたが、令和最初の卯年である今年こそ、みなさまの『資』産形成における飛躍の年となる予感がいたします。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者丸岡 知夫まるおか ともお

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 所長
1990年に三井住友信託銀行に入社。確定拠出年金業務部にてDC投資教育、継続教育のコンテンツ作成、セミナー運営に従事。2019年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)がある。

ページトップへ戻る