ミライ研が実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)において、お金の不安は、世代を問わず、1位が「老後資金」でした。老後不安から資産形成に興味を持たれる方も多くいらっしゃるかとは思いますが、今回のコラムでは、まずは老後に実際に高齢者はお金に困っているのか、政府統計をもとに確認してみましょう。

多くの高齢者は「心配なく」暮らしている(ただし、「ゆとり」があるわけではない)

60歳以上の2,435人へのアンケートである「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査(※外部サイトへ移動します。)」(2022年6月、内閣府)では、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」とした方は12.4%、「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」と答えた方は、55.3%いらっしゃいます。この2つを合計すると67.8%ですので、多くの高齢者は「心配なく」暮らしていることがわかります。もしかすると、少し意外な結果かもしれません。

図表1 あなたは、ご自身の現在の経済的な暮し向きについてどのようにお考えですか。 次の中から1つだけ選んでお答えください。

(出所)内閣府「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

ただし、ゆとりがある暮らしをしていると答えた方は全体の約1割にとどまっています。

多くの高齢者の主な収入源は公的年金

老後の収入の主なものといえば年金です。「2021年 国民生活基礎調査(※外部サイトへ移動します。)」(2022年9月、厚生労働省)をみると、公的年金を受給している高齢世帯のうち、収入の8割以上が公的年金という方々が過半数にのぼります。

図表2 公的年金・恩給を受給している高齢者世帯における公的年金・恩給の総所得に占める割合別世帯数の構成割合

(出所)厚生労働省「2021年 国民生活基礎調査」より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

そもそも公的年金は、あくまで「貧困に陥るのを防ぐ」ものです。ゆとりある生活を送るには、いくらかの備えもしておく必要があると思われます。

公的年金でいくら受け取れる?

では、公的年金でいくらくらい受け取れるのでしょうか。加入していた制度や期間、現役時代の収入にもよりますが、令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(※外部サイトへ移動します。)(2022年12月、厚生労働省)によれば、会社員だった方の平均でみると、厚生年金と基礎年金の合計で月145,665円となっています。

しかしこれはあくまで平均です。ゆとりある生活のために今から準備するには、ご自身の公的年金の金額を知ることが重要です。厚生労働省が公的年金シミュレーター(※外部サイトへ移動します。)というものを公開しています。もしお手元に、「ねんきん定期便」という日本年金機構から年1回お誕生日頃に届くハガキと、スマートフォンの2つがあれば、簡単に公的年金の金額を試算できますので、試してみてはいかがでしょうか。

ゆとりある老後のために、公的年金について学ぶことが第一ステップ

世代を問わず不安材料となる「老後資金」ですが、実際、多くの高齢者は公的年金によって「心配なく」暮らしていて、一定程度は公的年金の収入で老後の生活費を賄っていることがわかりました。とはいえ、暮らしにゆとりがある高齢者は少ないこともわかりました。老後の収入や支出は一人ひとり異なりますので、ゆとりある老後生活のためには、公的年金の給付見込み額を把握して、ご自身のライフプランに応じた備えをしておくことが大切です。ただやみくもに資産を増やせば不安が解消するというわけではなく、将来を見据えて行うことが重要です。

では、公的年金はどういう仕組みになっているのでしょうか。

公的年金には、国民年金と厚生年金保険という2つの制度があります。20歳~59歳の方は、働き方や暮らし方によらず皆さんが国民年金に加入しています。さらに、会社員や公務員等、雇われて働いている方々は、基本的には厚生年金保険にも加入しています。図にするとこんな感じです。「第1号被保険者」の方は、国民年金のみに加入し、「第2号被保険者」の方は、国民年金と厚生年金保険の両方に加入しているというのがポイントです。なお、よく「第3号被保険者」=「専業主婦(夫)」といった説明を耳にするかもしれませんが、実は、「第1号被保険者の配偶者であって、専業主婦(夫)である」という方は「第3号被保険者」ではなく「第1号被保険者」になります。ですので、下の図では「第3号被保険者」の説明をより正確に「第2号被保険者の被扶養配偶者」って書いています。ちょっとした豆知識です。

加入する公的年金制度の図

どんな保険料をいくら支払うの?

では、どんな保険料をいくら支払うのでしょうか?

第1号被保険者の方は、毎月「国民年金保険料」をご自身で支払います。2022年度(2022年4月~2023年3月)は月額16,590円です。基本的には17,000円くらいなのですが、2023年度は月額16,520円、2024年度は16,980 円といったように、毎年度、世間の賃金水準に応じて変動します。なお、保険料を支払うのが難しい方のために、手続きをすることで保険料の支払いを先延ばしにすることができる制度がいろいろあります。例えば、学生の方であれば、学生納付特例制度というものがあります。但し、先延ばしにした保険料を後で(10年以内に)支払わないと、受け取れる年金額に影響してしまいますので、注意が必要です。

一方で、第2号被保険者の方は、「国民年金保険料」は支払いません。毎月「厚生年金保険料」として、お給料やボーナスの18.3%相当を支払います。ただし、「厚生年金保険料」の半分は会社が負担してくれますので、自己負担は9.15%相当です。また、ご自身の負担分(9.15%相当)は給与天引きとなり、会社が会社負担分の9.15%相当とまとめて納めてくれています。なお、給与水準によって金額の高さが違うのをなんとなく表すために、図では高さを一定にせず斜めにしてあります。

なお、第3号被保険者の方は、毎月の保険料を負担しません。第3号被保険者の配偶者は第2号被保険者ですので、世帯としては負担済みと考えて、結果として厚生年金保険制度全体で、給付のための必要経費を賄います。

支払う保険料の図

どんな給付を受け取れるの?

では、どんな給付を受け取れるのでしょうか?

まず、国民年金に加入していた方は、基礎年金が受け取れます。つまり、第1号~第3号被保険者で共通して、基礎年金が受け取れます。ただし、老後に基礎年金を受け取るには、最低でも10年間は保険料を払っている必要があります。20歳から59歳までの40年間、ずっと保険料を支払っていた場合に、老後に(65歳から死ぬまで)受け取れる年金額は、2022年度でいえば年額777,800円(月額64,816円)です。保険料を支払っていた期間が40年よりも短い場合は、支払っていた期間に応じて金額が少なくなります。

なお、物価や世間の賃金水準に合わせて毎年度調整があるほか、現役世代の人数や長寿化も加味して金額が決まります。2023年度であれば、上記の金額は年額795,000円(月額66,250円)です。2022年度よりも多くなっていますね。このように、公的年金は一定程度インフレに対応しています。また、死ぬまで受け取れますので、長生きによるリスクにも対応しています。つまり、公的年金には、インフレや長生きに備える「保険」の役割があるのです。

受け取れる主な給付の図

さらに、厚生年金保険にも加入していた方は、厚生年金も受け取れます。老後に(65歳から死ぬまで)受け取れる厚生年金の金額は、基本的には現役時代に支払った厚生年金保険料に比例しますので、図も厚生年金保険料と同じ形にしてあります。つまり、給与水準に応じた金額になるということです。いろいろな特例もありますが、原則の場合をご説明します。保険料はお給料やボーナスの18.3%相当でしたが、保険料のもととなったお給料とボーナスについて、月平均の額を算出して、現在の貨幣価値に換算したものを考えます。これを「平均標準報酬額」といいます。厚生年金の年額は、

平均標準報酬額×5.481/1000×厚生年金保険に加入した期間(月数)

で計算されます。例えば、40年間厚生年金保険に加入していて、その間月収が平均で30万円(現在の貨幣価値に換算してこの金額だとします)の場合は、厚生年金の年額は

30万円×5.481/1000×40×12=789,264円

となり、月額だと65,772円です。これと基礎年金66,250円を合計すれば、132,022円というように計算できます(実際には所定の端数処理を行います)。

なお、物価などに応じて毎年の金額が調整されることや死ぬまで受け取れることは、基礎年金と同様であり、一定程度インフレや長生きによるリスクに対応した「保険」の仕組みといえます。

ここまで、公的年金制度の基本的な仕組みを見てきましたが、実は公的年金の受け取りは65歳からだけではありません。「え、そうなの?」と気になってしまった方は、ミライ研のコラムで解説しておりますので、こちらから続きをご覧ください。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者杉浦 章友すぎうら あきとも

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員
2010年に京都大学大学院理学研究科修士課程修了後、三井住友信託銀行に入社。年金信託部及び年金コンサルティング部にて企業年金の制度設計・数理計算業務に従事。厚生労働省への出向を経て、年金業務推進部にて年金に関する調査・研究・情報発信活動を行っている。2022年10月よりミライ研も兼務。年金数理人、日本アクチュアリー会正会員、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)。翻訳書として『図表でみる世界の年金OECD/G20インディケータ(2019年版)』(明石書店、2021年、岡部史哉(監修)らとの共訳)がある。

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