少しずつ気温も上昇し、過ごしやすい日も増えてきている中で、4月から新生活を迎えるといった方も多いのではないでしょうか?一般的に新年度が始まる前の2~3月は皆さまのお引っ越し事情もあり、1年間で最も不動産取引が活発になるといわれています。併せて2022年から年明けにかけての物価上昇、昨年12月には日銀の政策発表に呼応した長期金利の上昇など、「住まい」に影響がありそうなトピックスも多くありました。

そこで今回のマネーコラムでは、こうした環境下での「住まい」に関するお金事情を少しひも解いてみようと思います。

データから見るお住まい事情

「公益財団法人東日本不動産流通機構」が発表した2022年に首都圏で取引されている中古マンション価格を見てみると、成約物件価格の平均は4,267万円と、32か月連続で前年同月比上昇を続けています。年単位でみると平均価格は10年連続の上昇となり、2012年比でみると70.6%上昇していることがわかります。

図表1 首都圏中古マンションにおける成約物件価格推移

(出所)公益財団法人東日本不動産流通機構より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

また、2022年1月にミライ研にて実施したアンケート調査(対象年齢20歳~69歳)によると住宅購入者の78.9%は住宅ローンを利用しており、頭金割合については「ゼロ~2割」で全体の63.5%を占めていることがわかります(詳しくはミライコラム第61回「数字が教えてくれる、令和の“住まい”と住宅ローン事情①」でも解説しております!)。

図表2 持ち家居住者における住宅ローン利用割合

(出所)「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

図表3 住宅ローン利用者における借入時の頭金割合

(出所)「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

「住宅金融支援機構」が2022年4月に実施した調査によると、住宅ローンの金利選択については、73.9%(2021年10月調査時67.4%)が「変動金利」を選択しており、近年は「変動金利」を選択しているケースが大半となっているようです(住宅金融支援機構HPより報告資料(※外部サイトへ移動します。)を引用)。

「固定金利」についてはその名の通り、金利が固定されているため、世の中の金利が上昇したとしても、月々の返済額に影響を与えることはありませんが、「変動金利」を選択している場合は、金利情勢次第で返済額も変動します。大半の金融機関は、5年毎に返済額の見直しを行うルールを設けているため、金利が変動してもすぐに返済額には反映されないことが多いですが、返済額が変わらなくても返済額における利息と元本の割合が変わることはあり、結果的に返済期間に影響を与える可能性があることは留意が必要です。

「固定金利」「変動金利」はどうやって決まっている?

金利上昇、というお話を冒頭でさせていただきましたが、住宅ローンにおける「固定金利」「変動金利」の利率はどうやって決まっているのでしょうか。

「固定金利」は、金融市場からの調達金利をベースに各金融機関で利率が設定されるのが一般的です。市場金利が上昇した際には、「固定金利」の利率も上昇することになります。

「変動金利」は、日本銀行が定める政策金利をもとに、銀行が企業に貸出を行う際の最優遇貸出金利である「短期プライムレート」をベースに設定されることが一般的です。そのため日銀が金融緩和から引締め方向に政策を修正し、政策金利を引き上げるとなった場合は「変動金利」も併せて上昇することが想定されます。

金利上昇が起きると返済額はどうなる?

実際に借入金利が上昇することで、返済計画にどのような影響があるか、以下条件を置きつつシミュレーションをしてみたいと思います。

シミュレーション条件

「変動金利」での借入で返済期間10年目、20年目のタイミングで金利がそれぞれ1%上昇すると仮定してシミュレーションをした場合、当初の毎月返済額は「107,408円」、返済期間が10年目からは毎月返済額「120,988円」と「13,580円」の増加、20年目からの毎月返済額は「129,914円」とさらに「8,926円」の増加となります。シミュレーション結果を見ると、借入金利が上昇すると毎月返済額が具体的にどの程度増加することがわかると共に、返済額の増加幅は借入元金の減少に伴って小さくなるということもわかります。

図表4 借入返済額シミュレーション結果

(出所)金融広報中央委員会 「借入返済額シミュレーション」結果より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

個別のシミュレーション結果が気になる方は「金融広報中央委員会HP」(※外部サイトへ移動します。)からも試算できますので、是非お試しください。

借入返済額シミュレーション(※外部サイトへ移動します。)

これから借りる人に向けて

住宅ローンは数十年にわたる長期的な借入となり、その期間中の金利変動を予想するのは難しく、金額も大きなものとなります。そのため「変動金利」を選択する場合は、「借りられる金額を上限いっぱいまで借入をする!」という考えではなく、「返済期間中に金利が1~2%上がっても返済可能」といった返済計画をたてておくことが重要になります。また返済額の変動を避けたいという方は、「固定金利」を選択して、将来の返済計画を確定させるといったことも一つの方策かと思います。

既に借りている人に向けて

「変動金利」で既に借入を行っている方も、金利が上昇した際、具体的に返済額がどれくらい増加することになるかを事前にシミュレーションをしておくことをお勧めします。事前にシナリオを描いたうえで、「繰り上げ返済を進める」、「返済額増加に備え資産運用に取り組む」といった対策を考えておくことは、長期的なライフプランニングにおいて重要になります。

物価上昇や金利上昇の話題がある一方で、2023年は、複数企業での賃上げ発表や、2024年からのNISA改正など、資産形成において前向きな話題もあります。これらの話題や情報を取り入れつつ、三井住友トラスト・資産のミライ研究所では毎年、現役世代1万人を対象とした「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」を実施しております。そちらの結果を踏まえた情報発信についても、引き続き実施してまいりますので、ぜひそちらもご覧をいただけますと幸いです。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者桝本 希ますもと のぞみ

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2015年に三井住友信託銀行入社。奈良西大寺支店にて個人のお客さまの資産運用・資産承継に係るコンサルティング業務に従事。2019年よりIT業務推進部にてマーケット事業で利用するシステムの開発・保守業務を担当し、2022年より現職。現職では幅広い世代に対して資産形成、資産活用に関する調査研究並びにホームページやYouTubeを通して情報発信を行っている。

ページトップへ戻る