このたびの令和6年能登半島地震に伴う災害の被災地域にお住まいの皆さまにおかれましては、心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げます。

本年は辰年ということですが、60通りある干支(えと)の組み合わせでは「甲辰(きのえたつ)」にあたります。

「甲辰」は、春の暖かい陽射しが大地の全てのものに遍(あまね)くふり注ぎ、急速な成長と変化を助けるさまを表している、とのことなので、「大きな変化と成長の年」といわれています。余談ですが、今年、全国で約170万人の方が還暦を迎えられるそうです。この方々の生まれ年も「甲辰」でした。では、60年前、この方々が生まれた西暦1964年の日本では、いったいどんな大きな変化があったのでしょうか。

60年前の日本の大イベントとは。。。

1964年(昭和39年)は、東海道新幹線が開業した年です(とすると、東海道新幹線も還暦を迎えたわけですね)。また、東京武道館開館の年でもあります。記念日でいえば、東海道新幹線の開通日は10月1日、武道館の開館日は10月3日です。こんなビッグイベントが矢継ぎ早に、、、と驚嘆しますが、理由があります。それはこの年最大のイベントである「東京オリンピック」の開催が10月10日だったからです。「全てはオリンピックのために!」という熱さを感じます。

この年は、日本が先進国として、オリンピックという世界的なイベントが開催できることを示しただけではありません。経済面でもOECD(経済協力開発機構)への加盟を実現させ、名実ともに先進国の仲間入りを果たした年でした。OECD加盟から60年が経ちましたが、今ではOECD全予算のうち9.1%を担っており(2021年時点)、米国の20.2%に次いで大きな貢献を果たしています。

こうして1964年の出来事を振り返ってみますと、60年前の出来事や変化が、その後大きな成長を遂げて、現在において豊かな実りをもたらしていることは間違いありません。

では、今回の「甲辰」は、ミライに向けて、どんな変化が期待できる年なのでしょうか?

大きな変化の筆頭は「新しいNISA」

 「個人家計の資産形成・資産活用」を調査・研究しているミライ研としましては、今年のビッグイベントの筆頭として、1月からスタートした新しい「NISA」を推させていただきたいと思います。

本コラムでも、新しいNISAについては何度も取り上げてきていますが、個人の資産形成への影響・効用の大きさからすれば、外すわけにはまいりません。

日本は世界に冠たる長寿社会であり、ファミリーの在り様や働き方の多様化などがすごいスピードで進んでいます。こういった変化の中で、各人の生活において必要かつ十分な「お金のスケール(必要量)」は各人各様、人それぞれになっていくと思われます。

こういった時代において、新しいNISAは、「日本に住んでいる18歳以上であれば誰でも利用できて、どんな目的にも活用可能な資産の形成と運用」の器として位置付けられます。新しいNISA制度の概要はこちらです(図表1)。大きなポイントが4つありました。この特徴は平均的な個人の生活において必要かつ十分な「お金のスケール(必要量)」を準備する器として充分なものといえるでしょう。

図表1 新旧NISA制度の概要表

(出所)金融庁HP「新しいNISA」より当社作成
(※1)上場株式・上場投資信託(REIT・ETF)等は取り扱っていない金融機関があります
(※2)次の全ての条件を満たすものが投資対象
①信託期間が20年以上または無期限であること
②高レバレッジ型ではないこと
③毎月分配型ではないこと

国家として「金融経済教育」へ取り組みがスタート

NISAに勝るとも劣らないビッグイベントとして、「金融経済教育推進機構の設立」が挙げられます。この組織は今年度の設立を目指して準備が進められているところです。

従来から国民の資産形成には「器(制度)」と「情報(金融経済教育)」の2つが不可欠といわれていました。しかし、金融経済教育に日本銀行・金融庁・日本証券業協会・全国銀行協会・各金融機関等がさまざまな形で取り組んできていたものの、残念ながら、幅広く国民に浸透したという状況ではありませんでした。 こういった状況を打開するべく、岸田内閣が掲げる「資産所得倍増プラン」において「資産形成に関する教材の作成 、学校や企業への講座展開、 ライフプランに関する情報提供、金融機関から独立して資産形成の助言をする中立アドバイザーの認定や研修を実施していく」組織として2024年度に「金融経済教育推進機構」を設立することが盛り込まれました。これを受け2023年11月に同機構の設立に関する法が成立し、2024年度内に設立されることになりました。

金融経済教育推進機構には、現場感覚を持って全体状況を把握・分析し、実効性の高い取組みを官民一体となって推進していく「司令塔」となることが期待されています。具体的には、資産形成に関する教材の作成 、学校や企業への講座展開、 ライフプランに関する情報提供、金融機関から独立して資産形成の助言をする中立アドバイザーの認定や研修を推進していくことになります。また、今から投資の始める方や投資初心者に対してのサポートも手厚くなりそうです。

新しいNISAのシン・世代、始まる

こうしてみると、今年は、資産形成に不可欠である「器(NISA)」と「情報(金融経済教育推進機構)」がスタートする画期的な年になるでしょう。とりわけ、今年成人(18歳)を迎えるみなさんは、歴史に記録される世代になるかもしれません。なぜなら、日本で初めて「成人到達時から、家計の資産形成における強力なパートナーと一緒に、ライフプラン・マネープランに取り組むことができるシン・世代」といえるからです。強力なパートナーとは誰のことでしょうか?もちろんNISAのことです。

NISAは税制優遇が適用される「投資枠」が一生涯使える制度です。ライフタイムにおいてNISAの投資枠の中で「投資して売却して、再投資して」を生涯通して行っていける制度です。具体的には、一人ひとり、個別のライフイベント」に対して、NISAの器で積立て、増やし、イベント実現のために売却(現金化)して、消費し、また次のイベントに向けて積立てていく、ができるということです。これが「NISAは生涯のパートナー」といわれる背景です。また、NISAを活用して、自宅の購入費用や子供の教育費用、リスキリング費用や転職時の家計予備費などの用意ができますし、ライフイベントの中でとりわけ大きい「老後生活費」に対しても、NISA は心強いパートナーとなってくれることでしょう。

「初夢」ではない「心構え」

こういった大きな変化が訪れる年ですので、「初夢」ではなく「心構え」として、以下のような取り組みを考えてみました。

ミライ研で試算した平均的な家計における生涯収入は約3.8億円でしたので、「生涯収入の5%程度」をNISAの積立に振り分けると、生涯投資枠である1,800万円の上限まで活用できそうです。新成人のみなさんは、自分で収入を得るようになったら、月収の「5%以上」を目安にしてNISAの「つみたて投資枠」で積立投資を始めてみてはどうでしょう。NISAを開始したら、1年ごとに投資状況を確認し、その際にNISAで運用しているお金の使い途も一緒に考えてみると、ライフプランのやり方が少しずつ身に付いていくと思います。

60年前の「甲辰」は大きな変化と成長が期待できる年でした。60年前に生じた変化が大きく成長してきたように、今年播かれた様々な「資産形成の種」は、次の還暦を迎える60年先には、きっと大きく育っているに違いありません。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者丸岡 知夫まるおか ともお

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 所長
1990年に三井住友信託銀行に入社。確定拠出年金業務部にてDC投資教育、継続教育のコンテンツ作成、セミナー運営に従事。2019年より現職。主な著作として、『安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2020)、『安心ミライへの「金融教育」ガイドブックQ&A』(金融財政事情研究会、2023)がある。

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