「米国銀行が灯す黄信号」

2020年7月22日

「米国銀行が灯す黄信号」

「米銀の4~6月期の貸倒引当金が2008年10~12月期以来の高水準に」――。  

7月14日に、米国銀行3行(JPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ)の4~6月期決算が発表され、リーマン・ショック以来の水準まで貸倒引当金を積み増したことがわかりました。貸付金を回収できなくなるかもしれないと、身構えているようです。  

クレジット・サイクルが遂に終了か?

昨年10月にお届けした第5回「クレジット・サイクルの局面転換近づく?」で、米国を中心に、クレジット・サイクルの終了を警戒する声が高まっていることに触れました。「クレジット・サイクルの終了」とは、好景気を背景に企業は借入を増やす局面から、好景気が終わって企業収益が悪化し、債務不履行や倒産が増える局面に移行することを指します。  

図1は、米国の企業債務残高の名目GDP比の推移です。名目GDPと比較することにより、その国の年間の稼ぎに対して、どのくらいの借金を負っているかわかります。米国の企業債務は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の2019年12月末時点で既にリーマン・ショック時よりも高い水準にありましたが、直近のデータの2020年3月末時点には、過去最大まで上昇しています。

(図1)米国の企業債務 対名目GDP比

(図1)

(出所:FRB・Bloombergのデータより作成)

この背景には、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて景気が急速に悪化したため、分母の名目GDPが縮小した一方で、企業の運転資金ニーズが高まり資金調達が増加したことがあります。  

米国では3月13日に非常事態宣言が発表され、都市封鎖(ロックダウン)によって経済活動が突如停止したため、企業収益が急速に悪化しています。クレジット・サイクルの動きに従えば、今後、債務不履行や倒産が増えることが警戒されますが、今のところは、政府による巨額の財政出動とFedによる流動性供給・信用緩和に支援され、不良債権が急増する動きとはなっていません。  

米国の銀行が貸出基準の厳格化を開始

図2は、米国の銀行の商工業向け貸出について、30日以上延滞率と貸出基準の状況の推移を示したものです。延滞が長期化すれば、やがて不良債権となるわけですが、直近データの今年1~3月期の延滞率は過去と比してもかなり低い水準にあり、前述したとおり、不良債権急増の兆しはまだ見えません。

(図2)米銀行の商工業ローン:延滞率と貸出基準

(図2)

(出所:FRB・Bloombergのデータより作成)

しかし、図2にあるように、銀行の貸出基準の状況には動きが見られます。  

FRBは3ヵ月に1度、銀行に対してアンケート調査を行っています。その調査の中で、過去3ヵ月の間に、企業向けの貸出基準を厳格化したか、それとも緩和したか、を尋ねています。図2では、厳格化した銀行の割合から、緩和した銀行の割合を引いたデータをグラフに示しています。  

直近の調査は今年3月23日~4月3日の間に行われました。銀行の貸出基準は、前回の0から+41.5へ、急速に厳格化へ傾いています。過去の延滞率の動きと比較すると、貸出基準が厳格化へ振れてしばらくすると、延滞率が上昇していることがわかります。  

米銀が貸倒引当金を積み増したとのニュースは、将来の不良債権増加を警戒する「黄信号」と言えるでしょう。

パンデミックによる景気低迷の継続時間がカギに

新型コロナウイルスは国内外で再拡大するなど、収束の見通しが立ちません。景気低迷の継続時間が最大の不透明要因であり、不良債権が増加するか抑制されるかの分岐ポイントになっています。  

新型コロナウイルスがいつ収束するか、感染症の専門家でも予想困難です。長期化した場合には、リーマン・ショックのような金融危機につながる可能性が高まります。まだ「赤信号」ではありませんが、「黄信号」であることは忘れてはいけません。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

ページトップへ戻る