「フロリダ州とペンシルベニア州に注目!米大統領選挙」

2020年10月26日

「フロリダ州とペンシルベニア州に注目!米大統領選挙」

「11月3日の投票日が迫っています」――。

英国とEUとの通商協定交渉も気になるところですが、米国人だけでなく、世界中の注目の的となっているのは米国の大統領選挙の行方でしょう。

全国世論調査より激戦州の支持状況が重要

バイデン氏がトランプ氏をややリード、というのは既に多くのメディアが報道しています。その際に引用されるのは、Real Clear Politicsという政治ニュースサイトが集計した支持率です。しかし、前回2016年の大統領選挙では世論調査が当てになりませんでした。米大統領選挙に特有の「選挙人制度」のため、全国での得票数が多くても、大統領選出に必要な選挙人数を獲得できるわけではありません。そのため、激戦州でどちらの候補が多く得票し、その州の選挙人を総取りするかが重要になります。 

そこで、激戦州とされる12州について、支持の状況を確認したのが図1です。 

(図1)世論調査:バイデン支持率 - トランプ支持率

(図1)

(出所:Bloombergのデータより作成)

各州の世論調査でのバイデン支持率からトランプ支持率を差し引いた数字をグラフにしました。直近は10月20日のデータまで表示しており、グラフの凡例は上からバイデン氏への支持が高い順に並べました。凡例の州の名前の横には、各州の選挙人の人数を表示しています。  

Real Clear Politicsによると、538人の選挙人のうち、現時点(10月20日)で獲得の可能性が高い人数は、バイデン氏216人、トランプ氏125人となっています。そこで、激戦州について両氏の支持率の高い方から選挙人を加算していき、過半数の270人に到達するにはどの州まで獲得する必要があるか計算してみました。その結果は、図1のグラフ内に記載していますが、バイデン氏は上から5州、トランプ氏は下から8州を獲得すれば過半数に達します。  

あくまでも現時点での支持状況を順番にしたものではありますが、両氏が世論調査の順番通りに各州の選挙人を獲得していけば、ペンシルベニア州で激突することになります。ペンシルベニア州の選挙人は20人で、激戦州のなかでは、テキサス38人、フロリダ29人に次ぐ多さなので、天下分け目の州といえるのではないでしょうか。 

ペンシルベニアに加えフロリダも重要

選挙人数が38人のテキサス州は激戦州ではありますが、トランプ氏がやや優勢です。次に選挙人が多いのは29人のフロリダ州で、2000年のブッシュ(子)対ゴアの大統領選挙で票の集計が問題になった州です。また、1996年以降、フロリダ州を獲得した候補が大統領に選出されており、フロリダ州の動向は注目されています。 

今回の選挙では郵便投票で開票が遅れることが混乱を引き起こすと懸念されていますが、全米州議会議員連盟(NCSL)によるとフロリダ州は投票日の22日前から投票処理を行うことができます。さらに、郵便投票の受け取り期限は投票日の投票締め切り時間(日本時間11月4日午前9時)ですので、開票集計は円滑に進むと思われます。  

また、トランプ大統領は自身もフロリダ州に住民登録しており、8月4日に「フロリダの選挙制度は安全で信頼できる」と発言していますので、フロリダの選挙結果に異論を唱える可能性は低いのではないでしょうか。激戦州の中でも早々に判明するフロリダ州の選挙結果には俄然注目が集まります。  

一方のペンシルベニア州は、郵便投票の投票処理の開始は投票日当日の午前7時(現地時間)とされています。さらに投票日の消印の郵便投票は3日後まで受理可能となっています。ペンシルベニア州の投票締め切りは日本時間11月4日午前10時ですが、選挙結果が確定するのにかなり日数がかかりそうです。

フロリダ州をトランプ氏が獲得し早々に勝利宣言を出しても、数日後にバイデン氏がペンシルバニア州を獲得して逆転するという、混乱のシナリオも想定できます。ペンシルベニア州はバイデン氏の出生地ですので、トランプ氏の住民登録のあるフロリダ州とともに、因縁のある2州が大統領選挙の焦点となっています。  

短期的なドル円相場の反応は

選挙後の為替相場を考えるとき、大統領がどちらになるかだけでなく、上下院の多数政党の組み合わせが重要です。上下院の多数政党が大統領と同じ政党となると、経済政策運営が円滑に進行し、景気が上向く傾向があります。実際に、2016年選挙でトランプ氏が大統領となり、上院・下院とも共和党が過半数を占めた翌年の2017年末に大規模減税法案が成立し、2018年の景気を押し上げました。  

1985年のプラザ合意以降、大統領・上院・下院が同じ政党で占められたのは、1992年のクリントン(民主党)、2000年のブッシュ(共和党)、2008年のオバマ(民主党)、2016年のトランプ(共和党)の4ケースです。図2は、その4ケースについて投票日のドル円レートを100としてその後の推移を示しています。  

(図2)大統領選挙投票日以降のドル円レート

(図2)

(出所:Bloombergのデータより作成)

2008年のオバマ当選時は、リーマン・ショックの直後で円高が進んでいたので例外とみてよいでしょう。それ以外の3ケースはドル高・円安のペースは異なりますが、ドル高傾向となっています。  

今回の選挙では、上院については共和党・民主党が拮抗していますが、下院の過半数を民主党が獲得する可能性が高いと見られており、トランプ大統領再選の場合、すべて共和党で占めるのは難しいでしょう。バイデン氏当選で上下院の多数派が民主党となれば、短期的な反応としてはドル高が期待できるのではないでしょうか。  

米大統領選挙投票日が迫っています。2016年にヒラリー・クリントンの私用メール問題でFBIが再捜査を連邦議会に通知したのが投票日の11日前の10月28日でしたので、“October Surprise”の可能性はまだ残っています。日本に住む我々は、フロリダ州とペンシルベニア州に注目しながら、11月4日の開票速報を待つのみです。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

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