第20回「ブルーウェーブで米長期金利上昇?」

2021年1月25日

「ブルーウェーブで米長期金利上昇?」

「米10年国債利回りが10カ月ぶりに1%台へ」――。

2021年年明け早々1月5日に、米連邦議会上院2議席の決選投票がジョージア州で実施されました。日本時間6日に開票速報が流れる中、米長期金利は上昇し1%を超えました。

FRBの強力な金融緩和政策で長短金利は低位に

2020年3月11日に世界保健機構(WHO)がパンデミック宣言を行い、FRBは経済への悪影響に先手を打って政策金利(FF金利、短期金利の基準となる金利)の大幅引き下げと国債等の購入を再開しました。それを受けて、短期金利だけでなく、長期金利(10年国債利回り)も大幅に低下しました(図表1参照)。

(図1)米国の長短金利の推移

(図1)

(出所:Bloombergのデータより作成)

コロナ・ショックで金融市場が動揺した2020年3月9日に米10年国債利回りは一時0.31%まで低下し、その後は0.5~1.0%で推移しました。FRBが政策金利であるFF金利を大幅に引き下げ、少なくとも2023年末までは利上げをしない姿勢を示したことに加え、国債等の資産購入で量的緩和政策を再開したことで、長期金利にも大きな低下圧力がかかったためです。

とはいえ、大規模金融緩和と先行きの景気回復期待によって、昨年4月以降、株価は上昇傾向を続けたこともあり、長期金利はやや上昇しましたが、それでも1%を超えることはありませんでした。

しかし、2021年の年明け早々の1月6日に1%台を回復しました。その前日の1月5日にジョージア州で上院議員選挙の決選投票が行われており、その結果が6日に判明し、民主党が2議席を確保する見通しとなったことが背景にありました。1月6日はトランプ氏支持者が連邦議会議事堂に侵入するという異常事態も発生しましたが、長期金利を1%以下へ押し下げるには至りませんでした。

拡大傾向が続く米連邦政府債務

長期金利に影響を与える主な経済政策には、金融政策と財政政策があります。コロナ・ショックによる経済の悪化を支援するために、米国の金融政策は強力な緩和状態にありますが、財政政策も拡大しています。

図2は、1940年からの米連邦政府の債務残高と財政収支の推移を示しています。経済規模である名目GDPに対する比率になっているので、過去と比較することが可能になっています。なお、2020年以降の数値は、議会予算局(CBO)が昨年9月に公表した見通しです。

(図2)米連邦政府の財政状況(名目GDP比)

(図2)

(出所:米議会予算局のデータより作成)

財政収支の名目GDP比は、コロナ・ショックへの対応で2020年は-16%程度と見込まれています。これはリーマン・ショックに対応した2009年の-9.8%に比べ、財政赤字幅が大幅に拡大しています。大規模な財政出動で財政赤字が生じたら、その分を借金しなくてはなりません。つまり、政府は国債を発行するので、債務残高が増えます。

債務残高の名目GDP比は、第2次世界大戦時に100%を超えましたが、その後は経済成長により名目GDPが増加したことが寄与し、100%未満で推移してきました。2008年のリーマン・ショック後にも景気支援で財政支出が増加し債務残高も急増しましたが、それでも100%を超えませんでした。しかし、今回のコロナ・ショックを受けて、米議会予算局は1946年の最高値104%を上回る見通しを示しています。具体的には、2020年が98%、2021年が104%、2022年が106%との見通しです。

リーマン・ショックとコロナ・ショックへの経済支援策を合わせると、第2次世界大戦時並みの債務増加につながることになるわけです。

ブルーウェーブで財政拡大加速?

民主党は伝統的に「大きな政府」を志向するとされており、実際にバイデン大統領は1.9兆ドル規模の新たな景気対策案を提示しています。その中には、1人1400ドルの追加現金給付、失業保険積み増しの特例措置の9月までの延長と積み増し額の増額(300ドル→400ドル)、最低時給の15ドルへの引き上げなどが含まれています。

財務長官候補のイエレン前FRB議長も、1月19日の上院の指名公聴会で、「景気回復が遅れないように大胆に行動することが必要」と述べ、債務が拡大しても恩恵のほうが大きいと財政拡大姿勢を示しました。

しかし、財政支出の法律を成立させるのは議会です。大統領の経済対策案がそのまま通るわけではありません。

昨年11月の選挙で、民主党は大統領と下院議席の過半数を獲得しましたが、上院議席は共和党が定数100議席のうち50議席を確保し、ジョージア州の2議席が決選投票で持ち越されていました。そのジョージア州の2議席を民主党が獲得したことで、上院は民主党と共和党が単半数ずつとなり、賛否同数の場合にはハリス副大統領が決定票を握ります。従って、大統領と上院・下院の多数派を民主党が獲得する、いわゆる「ブルーウェーブ(トリプルブルー)」となりました。

そのため、長期金利に上昇圧力がかかったのですが、民主党の上院支配力は副大統領の決定票一つに依存しているだけです。バイデン大統領が示した1.9兆ドル規模の経済対策は、「薄氷のブルーウェーブ」では満額回答は難しいと思われます。

1月に入り、「ブルーウェーブ」成立で長期金利は1%台へ上昇しましたが、このまま上昇基調が維持されるかどうか、米連邦議会の審議に注目しておく必要があります。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

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