第25回「テーパー・タントラムは再発するか?」

2021年9月13日

「バーナンキFRB議長の資産購入縮小発言で金融市場が大混乱」――。

2013年5月に、当時のバーナンキFRB議長が「雇用市場の改善が継続し、持続可能と確信すれば、向こう数回の会合で資産買入れ縮小が可能に」と発言したことで、世界的に株価が急落、為替相場も不安定化しました。これが「テーパー・タントラム」と呼ばれています。

テーパー・タントラムとは

テーパー・タントラムは、「taper(=次第に少なくなる)」と「tantrum(=かんしゃく)」を組み合わせた言葉で、Fedが量的緩和として実施していた資産購入額が「次第に少なくなる」ことへの警戒から、金融市場が「かんしゃく」を起こすことを指します。

筆者が所有する英和辞典(研究社「新英和中辞典 第4版」)には、「go into a tantrum(=むかっ腹を立てる)」「He is in his tantrums(=彼は腹を立ててぷりぷりしている)」といった例文が掲載されているので、「tantrum」にはパチッパチッとはじけるようなイメージを個人的に持っています。

2013年5月当時、Fedは毎月850億ドルの債券(国債450億㌦・住宅ローン担保証券400億ドル)を購入していましたが、リーマン・ショックから5年超が経過しており、米国経済は堅調さをかなり取り戻していましたので、金融政策の正常化を模索してもおかしくはありませんでした。しかし、米ドルは米国だけでなく世界全体でも幅広く経済取引に使われているため、米国の金融緩和縮小(テーパリング)観測は世界経済の新興国を中心に株価が下落し、リスク回避の動きから円高となりました。日経平均株価は5月23日の高値から6月13日の安値まで約22%下落しましたし、ドル円レートは5月22日の高値103.74円から6月13日には93.77円と、1ヵ月も経たないうちに10円近くも円高が進みました。

このようにテーパリング観測によって金融市場が動揺することを「テーパー・タントラム」と呼び、Fedがパンデミック対応で再び量的緩和を実施していることで、同じようなことが発生しないか、注目されています。

米国の金融緩和縮小は、特に株式市場に影響を与える可能性は高いと思われます。しかし、人間は学習するので、金融市場が動揺したとしても、8年前よりは小幅なものにとどまるのではないでしょうか。今回は、「タントラムが起こるかもしれない」という予見があるのですから。

2013年のテーパリング決定前後の為替相場の動き

さて、テーパー・タントラムから半年ほど経過した2013年12月に、FOMCにてテーパリングが決定されました。ここで、その前後の為替相場の動きを振り返ってみましょう。図1は、Fedの総資産残高および政策金利の推移と、ドル円レートの動きを並べたものです。なお、図に示したように、金融政策正常化は、テーパリングの後、「利上げ」⇒「バランスシート縮小」という手順で進みます。

(図1)Fed総資産残高・政策金利とドル円レート

(図1)

(出所:Bloombergのデータより作成)

タントラムでドル円レートが動揺しましたが、2013年10月頃からドル高・円安傾向となり、テーパリング決定直前の12月13日にはドル円レートはタントラム直前の103.74円を上抜け、12月末に105円台をつけました。

ところが、2014年1月にテーパリングを開始したものの、ドル円レートは102円前後に張り付いたまま動かなくなりました。日米の金融政策に新たな動きが見られなかったことが背景と思われます。そのため、10月の日銀のサプライズ緩和は大幅なドル高・円安をもたらしました。

このように、8年前のテーパリング前後のドル円レートは、「噂で買って事実で売る」という相場格言を体現したような動きだったことがわかります。

今回のテーパリングはいつか

変異株という不透明要因があるものの、米国経済はパンデミックからかなり回復しており。パンデミックに対応した緊急対策が縮小されるのは、さほど遠い将来ではないでしょう。図2に示したように、米国の失業率は急速に改善しています。前回のテーパリング決定時の2013年12月の失業率は6.7%でした。それに対し、直近2021年8月は5.2%で、テーパリングは十分に射程圏内にあると言えるでしょう。

(図2)米 失業率

(図2)

(出所:Bloombergのデータより作成)

もちろん、物価上昇率や雇用以外の経済の動向にも目配りする必要があるので、失業率だけでテーパリングが決まるわけではありませんが、「最大雇用と物価安定の目標に向けて著しい進展が見られるまで」資産購入を継続するという方針に照らして、2021年内にテーパリングを決定する可能性は高いのではないでしょうか。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

執筆者関連書籍のご紹介
「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック(NHK出版)」
「60歳までに知っておきたい金融マーケットのしくみ(NHK出版)」

※NHK出版のWEBページに移動します。

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