第26回「総選挙で金融市場は大きく変化するか?」

2021年10月21日

「衆議院を10月14日に解散し、31日に投開票」――。

10月21日に衆議院議員の任期満了が迫るなか、4日に岸田総理大臣が就任後初の記者会見で総選挙の日程についてこのように表明しました。金融市場にとっては、総選挙でどのような影響を受けるか、気になるところです。

総選挙と株式市場

過去の総選挙の投票日前後の金融市場の動きについて、まず、日本の株式市場から振り返ってみましょう。

図1は、1972年以降の総選挙について、投票日を基準時点とした日経平均株価の変化率をまとめたものです。平均の変化率は、4週間前+2.9%、4週間後+1.6%、12週間後+4.1%、24週間後+5.0%ですが、1970年代・80年代の株価上昇基調が続いた局面を含んでいることに注意が必要です

もう少し近い時期に限定し、21世紀に入ってからの総選挙6回について見てみましょう(図1の①~⑥)。具体的には、①2003年11月の構造改革解散(第1次小泉政権)、②2005年9月の郵政解散、③2009年8月の政権選択解散(民主党政権成立)、④2012年12月の近いうち解散(自民党政権復活)、⑤2014年12月の消費増税先送りの信を問う解散、⑥2017年10月の国難突破解散(モリカケ問題突破?)です。

日経平均株価変化率のこれら6回の平均は、4週間前+3.1%、4週間後+1.1%、12週間後+9.8%、24週間後+15.3%で、投票日前後1ヵ月については、投票日後よりも投票日前の方の株価上昇率が高く、期待が先行しやすい傾向が見て取れます。3ヵ月後・6ヵ月後については高い上昇率になっていますが、①・②・④・⑤の4回がしっかりとした上昇傾向を示したのに対し、③は下落、⑥は上昇後に反落しています。

(図1)衆議院選挙投票日前後の日経平均株価の変化率

(図1)

(出所:Bloombergのデータより作成)

株価上昇基調が半年後も継続したケースを見ると、総選挙の争点に変化・変革があることが考えられます。象徴的に思い出されるのは、④2012年12月の「近いうち解散」で、アベノミクス相場となったことでしょう。

上昇基調とならなかったケースについては、③はリーマン・ショックの影響が後を引いていたこと、⑥は米中通商対立が勃発したことに加え選挙の争点が「モリカケ」「桜を観る会」などの安倍政権への是非にとどまったことが背景と考えられます。

では、今回の総選挙はどちらのパターンになるでしょうか。新型コロナウイルスへの対応や足もとで落ち込んでいる経済への対策が注目されていますが、「変化・変革」がテーマとして前面に出るのは難しいように思われます。もしも今後、争点として閉塞感(特に経済の)を打破する「変化・変革」が浮上してくるならば、株価の持続的な上昇へつながる可能性が出てくるので、総選挙関連の情報への感度は高めておくべきでしょう。

総選挙と外為市場

続いて、為替相場について見てみましょう。図2は、図1と同様に投票日前後のドル円レートの変化率をまとめたものです。

1972年以降の平均では、4週間前-0.1%、4週間後+0.4%、12週間後+0.4%、24週間後+2.4%となっていますが、円安・円高の方向はまちまちです。また、直近6回の平均は、4週間前+0.7%、4週間後+0.8%、12週間後+2.9%、24週間後+3.4%で、円安方向3回、円高方向3回と、やはり変化の方向はバラバラです。

(図2)衆議院選挙投票日前後のドル円相場の変化率

(図2)

(出所:Bloombergのデータより作成)

円安の動きが顕著だったのは、②2005年9月と④2012年12月でした。②は郵政解散よりも「キャリートレード」として低金利通貨売り・高金利通貨買いの動きから円安傾向となっていた時期にあたり、④はアベノミクスの「3本の矢」の一つの「大胆な金融緩和」を受けた円安進行が背景にありました。

円高となったケースについて、①は小泉改革期待からの「日本買い」、③はやはりリーマン・ショックの余波でリスク回避の円高、⑥は米中通商対立を警戒したリスク回避の円高と整理できるしょう。

以上から、ドル円レートは総選挙に絡んで動くパターンが少ないことがわかります。ドル円レートには海外経済に起因する影響の方が強く、今回の総選挙も、政権交代が起こるようなことがない限り、為替レートへの影響はかなり限定されると見ています。ドル円レートにとっては、日本よりも米国、特に金融政策の動向が強く意識されるでしょう。10月31日の総選挙投開票が終われば、11月2~3日にFOMCが開催されます。Fedはここで資産購入縮小を決定するのではないかと見る向きもあり、外為市場では総選挙よりもFOMCへの注目度が高まるのは自然な流れでしょう。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

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